海岸をかける2人のカプル。はしゃぎながら嬌声をあげ、彼女がふと
つまづいて転ぶ。その上にかぶさるオレ。ドサっと崩れ落ちた次の
瞬間、顔と顔がわずか数センチの幅に。唇が触れる。オレと彼女はゆっくり
瞳を閉じる。わずかな静寂。波音だけが2人を包む。夕日をバックに
2人の陰影が黄金色の波打ち際に黒く映える。
夏虫アワレ
オレと彼女はつっくり瞳を開ける。うっすらまぶたが開くのがオレより
ほんのちょっと遅れた彼女はぬれた唇の端を上げ恥ずかしがる。サンダル
脱げちゃった。といって視線をずらす彼女。あはは、と笑う彼女を真剣
に見つめるオレ。頬についた砂を払いゆっくり立ち上がろうとしてもう1度
足をすべらせ彼女に覆いかぶさる。重そうに顔をゆがめる彼女。その唇に
またキスをした。
「その唇にまたキスをした。」で終わる話で1000まで行ったらまた来る。
キスする瞬間、いくかいくまいかでほんのちょっとの戸惑いがオレの心
を揺さぶる。数秒ともいえない数では表せない、そんなほんのちょっとの
短い時間の中をオレはさまよった。唇を重ね合わせようとする思いが、彼女
のゆがんだ表情を捕らえた。オレの重さを彼女は欲していないのか。
また、いつもの弱気が顔を出す。唇が触れてもオレの心は彼女の気持ちを
捕らえきれないままなのか。波の寄せる音と引く音の変わりないループが、
オレの心と同調する。なんか、静か。そう言ってまた微笑む彼女の笑顔を
確かめた。重そうにゆがんだ表情は、何もなかったかのように消えていた。
ホテル…そうつぶやいてやっぱりやめた。ん?とつぶらな瞳を開いてオレ
に顔を近づける彼女。オレのつぶやきをわずかに聞き取ったらしいのを悟った
オレは彼女の折れそうな体から腰を浮かせそのまま仰向けに寝転んだ。上体を
起こし、海に沈む夕日の橙色に目を眩ませる。すげえな。夕日を見つめたまま
横に寝そべる彼女を抱き起こした。うわあ。ワンピースの脇から見える肌を払い
彼女も夕日に目を凝らした。きれい。砂浜に手を付いて上体を支え、彼女の背中
についた砂をのう片方の手で払った。そのまま腰に手をやり彼女を抱き寄せる。
創作板でやってろ
8 :
吾輩は名無しである:2006/08/17(木) 02:38:04
キモすれ晒しage
水平線に太陽が沈むのを2人で見届けた。さっきまで、2人ではしゃぎあい波打ち際
を走っていたのが嘘のように、時間の推移とともに静かな郷愁に覆われていた。
2人とも、ほんとはどっかで何かを隠している。でも、それは隠したくないのに
隠されてるってお互いがお互いの心を見つめているだけで、じつは何もないのかも
しれない。オレは、彼女の前でそれをさらけ出したい。そして彼女の心に侵入したい。
無言の中、夕日が最後に見せた光の片鱗は、彼女の頬をつたって暗くなった砂浜にポツリ
とたれる一滴の涙をオレに見せ付けた。オレはどうしようもなく、彼女の体を支えてやる
ことしかできなかった。
太陽が完全に海に沈んで、あたりはほんとに真っ暗になった。2人はそれを待って
いたようにため息をつき、さて、と立ち上がった。行こうか?とオレは彼女に言うと
どこに行くの?と問い返してきた。さあな。とオレは振り返り、海岸沿いの道路に駐車
してあった車へ向かった。これからどこへ行くのか。そんなことはどうでもよかった。
ただオレは過去に向き合い、自分の気持ちを確かめようとしている彼女に対して、
自分の存在をなんとか打ち出そうとするのに、ひどく疲れたし、いやだった。砂浜を出る
まで彼女は一人で海を眺め続けていた。まるで、彼女にしかそれが見えていないかのように
じっと瞳をずらさないまま誰かとの再開をん懐かしみ、そして悦んでいるように見えた。
誰かといっても、それはもちろんあいつしかいないわけで、僕はこのときどうしようも
ない孤独感と無力感にさいなまれていた。
平野っていいよなぁ
カローラのドアを開け運転席に座ろうとするまえに、海岸のほうを見やった。
彼女はまだ「あいつ」との再会を懐かしみ、そしてよろこんでいた。オレが砂浜
をすでに立ち去ったことにも気づかず、あるいは気づいてのことなのか、彼女は
立ったままその姿勢を微々とも動かさず、あの日のことを思い起こしている。
いくらオレが唇を奪っても、その心はいまだ揺るぎのないもので、彼女の見ている
のは遠い過去のあの日と、まだ見ぬ、決して見ることはできない未来でしかなかった。
胸ポケットにまだ一本だけ残っていたマルボロメンソールをつまんで取り出し、
ライターの火をともすと、彼女はその火の中に消えた。彼女がいなくなってしまった
みたいにかんじた。「あいつ」と一緒にあのまま海へ消えてなくなってしまったみたい
にかんじた。戻って来い!気が付いたら、クラクションをなりっぱなしにしていた。
タバコの火を暗がりに照らしながら、ハンドルの中央部分を掌でベタ押しし続けて
いた。けたたましく鳴り響いているはずのクラクションは夜の海岸とはまるで似合わない
騒音だった。オレの手は、彼女の思いを手繰りよせることができるのか、そんなこと
はもう考えもしなかった。ただ、それは無我夢中としかいいようのない、あせりと不安
と自己嫌悪のもたらした、非常事態の宣告でしかなかった。オレはむしろ彼女と「あいつ」
が暗闇に消え、自分だけがたった一人でこの暗がりに取り残されることの惨めさを
クラクションの騒音に頼ることでしか解決できなかった。タバコの火とライターの火の明かりだけが
ともる海岸沿いへ、走ってやってくる彼女の姿が見えたとき、オレは掌を自分の意思で
引っ込めることができた。彼女に悟られたに違いないオレのあせり、不安をどう言い訳
しようか、そのことだけが頭をよぎった。
ごめんね。そういって彼女はオレの前に姿をあらわした。オレは言い訳する余裕
もなく、彼女のその姿をただ見つめていた。つい、数分前にはその唇にキスをし、
体と体を重ね合わせていたのが、嘘のような、数年越しに久しぶりに会ったような
そんな懐かしさすら感じた。ちょっと、考え事してて…。そう小さくつぶやき
走ってきたせいか軽く息を切らしながら、オレの顔を覗き込む彼女。いや・・・。
うるさかった?オレは軽く笑みを浮かべ、そう答えることしかできなかった。
ちょっと、ね。といって笑う彼女のその笑顔には、さっきの涙も、一人で海をながめ
ていたこともすべて終わったことなのだ、という訴えを見てとることができた。
ちょっと最近、車の調子がおかしいんだよ、クラクションちゃんと鳴るかなと思って。
とってつけたような言い訳が2人の溝をさらに深めることなどわかっていた。
でも、ほかに言うべきことなど、今のオレには見当たらなかった。
これって何?コピペ?
もう火が消えてから何分たっただろう。ずっと人差し指と中指の先ではさんでいた
タバコを捨てることすら忘れていたなんて。よっぽどだなこりゃ。ねえ、これから
どこ行くの?助手席の彼女が前を向いたままそう口にするのを聞き、じゃ、ホテルで
も行く?と冗談めかして場の雰囲気を取り繕おうとしたが、タバコをつまんだまま
硬直していた指先を動かそうとしたとき、自分の意識がかなり酩酊しているようなかんじ
になっていることが情けなかった。さりげなく、タバコを車の外に捨て、もはや夜の暗闇
に海と波打ち際の境界も認められぬまま、そのどこかにいるだろう「あいつ」に別れを告げる
つもり、勢いよくバタン!とドアを閉めた。ホテルって温泉あるのかなあ?彼女はオレの言葉
に同調しようとして場の雰囲気を保とうとしたが、実際、本気で温泉旅館のことだと
思っていたらしく、それって温泉旅館とかだろ?そんなお金あるわけないだろ。とオレが
諭すと、そっかあ、と幾分がっかりしたような表情を見せた。その表情は柔らかい
穏やかなもので、オレはこの表情にいつもやられる。そんなタイミングで、
じゃ、どこのホテル?と間髪いれずに問い返してきて、え?とオレは吃驚して
しまった。
「間髪いれず」っていう日本語はないのよ。
「間、髪をいれず」なのよ。
どちらにしろ、陳腐な表現ですね〜
どこのホテルっていってもな〜。オレはキーをまわし、海を一瞥して車をだす。
本当に、これが最後だと願ってる。
彼女が「あの海に行きたい」と、いつか口にすることすら忘れる夏が、
そんな夏が本当にくるかどうかわからないが、オレたちは、いや彼女はいつも
「あいつ」の影を忘れられず、追い求め、当たり前のように「あの海に行きたい」と
いい、それが「あいつ」との再会を意味することすらも素知らぬ振りで
もはや習慣化した夏の行事、オレと彼女と「あいつ」の3人だけのその行事を
繰り返すためだけにこの海にくることがいつかなくなる日を待っている。