●●●ふたたまちんぷっぷ●●●

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36中原昌也「点滅……」
俺は小説家だ。金のために書いている。小説なんか書きたくないのに。貧乏で電気も止められた。
雑誌のインタビューで面白エピソードを喋れというので、知り合いの男の話をしようと思った。
相手に不快感を与えず、そこにいるだけで雰囲気がよくなる不思議な男だ。
最近、彼を見ないなあと思っているうちに、ずいぶん長い年月が経ってしまい、行方不明だ。
彼がデパートの吹き抜けスペースでショーをやるというチラシを発見したので、出かけたのだが、本人が今朝急死したと告げられた。
だがステージはできあがっていて、ショーがはじまらんばかりの風景だ。
俺は今、喫茶店で雑誌の記者と向かい合い、テープレコーダーを回しながら、彼の話をしようと思うのだが、
どうもよそ事が気になって仕方がない。
喫茶店の外にいる時代外れのケミカルウォッシュの男三人組や、犬や、町内放送や、
相手の雑誌記者が持ってきた新潟列車事故の凄惨な血だるま死体写真など。
結局、知り合いの男の話を一切できないまま、喫茶店でのインタビューはおしまいになってしまった。
デパートの無人ステージ前に俺はいる。空調技師と揉め事を起こした。
俺はステージの機械を修理した。三つのランプが点滅して様々な会話や用途を伝えられる信号を発する機械だ。
この点滅さえあれば、国を超えた言葉の違いや、異性間のトラブルなどすべて解決だ。俺が修理しているうちに、たくさんの客達が集まってきた。
俺がスイッチを入れると、三つのランプから激しい閃光が生まれ、客達を飲み込み、俺達は一つになれた。
機械から黒い煙がのぼり、火事となった。(了)