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ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :
「疑わしき戦い」を読んだ。
極力心理描写を排した簡潔でストイックな文体、
労働運動(渡りの農場労働者のストライキ)に関する不屈な精神性を描いた物語
(しかし、随所に見られる効果的な情景描写は、いかにもスタインベックらしい
ものがある)
文体・内容ともにハードボイルド小説の名称にふさわしい作という感を持った。
労働運動を通した青年の精神的な成長を描いた物語(教養小説)という形はとらず、
労働運動を客観的・科学的に把握しようとする青年医師バートン(通称「ドック」、
「コンバット」かよ(w )を脇に配する等、極端に左傾化したプロレタリア文学という
感じはしないものの、作家スタインベックを語る場合に落とせない作品とはいえ、
新潮文庫に入らなかったのは致し方ないという感は受ける。
ゆえに、岩波文庫にあれば違和感が無いというところか。
男の世界というイメージが強いハードボイルド小説だが、女性の存在感は決して小さい
ものではなく、本作でも労働運動のリーダーとなるロンドンの娘リサにはピュア過ぎて、
精神的タフささえ感じさせるものがある。
「怒りの葡萄」のジョード家のおっかあや長女ローザシャーン、「赤い小馬」のジョウディの母親にしても、スタインベックという作家には、等身大の聖母憧憬とでも称すべき
ような傾向があるように思われる。
(「ハツカネズミと人間」は、身近な聖母的役割を果す存在が不在だったがゆえの
悲劇とも言い得る。童心の殺人者レニーにとって最も必要だったのは、このタイプの女性
だったのである)