ゴーゴリ

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255ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2
ゴーゴリの代表作を新・旧訳で比較読解するという知識人らしい作業に従事している
今日この頃である。
テクストは、
岩波文庫「外套・鼻」(平井肇 訳)と光文社文庫「鼻・外套・査察官」(浦雅春 訳)。
まず、収録作品中の「外套」における冒頭部分の書き出しを比較してみることとしよう。
「ある省のある局に…しかし何局とははっきり言わないほうがいいだろう。
おしなべて官房とか連隊とか事務局とか、一口にいえば、あらゆる役人階級ほど
怒りっぽいものはないからである」(平井訳)
「えー、あるお役所での話でございます…。まあ、ここんところはそれがどこのお役所
であるのかは申し上げないほうがよろしいでしょうな。なにしろ、省庁にしろ、
連隊にしろ、官庁にしろ、ひとことで申しまして、お役人って人ほどこの世で
気のみじかい人はございませんから」(浦訳)
後者は訳者みずから落語調(あとがき)と述べているとおり、一読、その斬新さは目を
惹くものはあるものの、通読した感は意外に両訳書の差は際立ったものではない。
(この点は「鼻」も同様である)
原テクストが同じゆえ当然な部分もあれど、例えば「外套」のラストシーンにおける
幽的の台詞「何ぞ用か?」(平井訳)、「なんぞ用かい?」(浦訳)等に見て取れるが如く、
ポイント部分では、浦訳が平井訳から際立つものではないゆえかと思う。