ある小説
運命には意味がある。
君は表参道のopen cafeで何かつまらない飲み物を流し込んでいた。
幾多の人々。
生まれては消え去る命のともしび。
愛と自由と平和──そして未来。
目の前を通り過ぎていく人ごみを眺めて、着地点のない思索に身を浸していた。
僕は何気なく君と背中合わせの席に着く。
ケータイをいじる。
面白くもないメール──好きでもない友ダチからだ──に目を通し、吐き捨てるように削除キーを叩く。
下らん。
私が今読みたいのは、このやり場のない思いをムチャクチャにぶっ壊してくれるような素敵な物語なのだ。
エスプレッソは不味いし、やけに高い。これで490yenはないよ。
でもこの「位置」に価値があるのかな?まるで人間達が流れて行く川を観察する特等席のようだ。
僕は君の香水の種類が安物だと悟る。
でもそれが何だ?
彼女は少なくとも、素敵な目配せで何かを探し求めている。直観的に解る暇つぶし中の女だ。
そして待ち人はいない──ケータイを打つときの姿勢が緊張感を欠いてるから。
僕は何らかの啓示を送るようにわざと、白いラウンドテーブルの端からmenuの一枚をこぼす──
私は後ろの席に座った誰かが落としたメニューを拾う。
振り向いて返そうとする。
あ
このヒト、かっこいい。
それを受け取り優しい声で「すみません」と言ってまた自分が読む本に意識を戻す彼。
まるで運命みたい。
こんな格好いいヒトと背中合わせに座ってるなんて!
僕は文章の上の文字列を読みとる。
間違いはない。
このstoryは今、始まったばかりなのだ。