熊本のお話
森の中から一匹のクマが出てきた。
彼を仮に、クマ君と名づけます。
クマ君はあるお茶屋さんに入った。
ウェイターのお兄さんがmemuを運んだ。彼はじっくり読み、バジル・サンドイッチと紅茶を頼んだ。
しばらくすると運ばれてきたそれらをパクつき、目を白黒させて言った。
「とても美味しいね」
「それは有難うございます」お兄さんは答えた。
「どうやって作るの?コレ」
クマ君は自宅に帰って、
教えてもらった仕方でパンを焼き上げ、市場で買った具を包んだ。
頂いた紅茶を淹れて、タイミングを見計らって食卓に運んだ。
友だちの彼女──ここでは仮に、クマさんとしよう──はホッペタが落ちるかと思った。旨い。
クマ君とクマさんは後にそこで喫茶店を造り、夫婦仲良く経営することになる。
伝説のcafe『白熊』の誕生だ。
恋バナ
彼氏とこんな場所まで来たのは初めてだ。
品川の埠頭。
普段は互いの会社がある駅前の周りで、安っぽい居酒屋に入っては騒ぎ回るのが常なのに。
時刻は23時。岬の公園には人影ひとつ無い。あるのは──静かな波の音色と、潮の穏やかな香り。
「今日こんな所まで連れ出したのはね……実は、君に言わなくちゃならないことがあるんだ」
彼が、じっと閉じてした口を開けて、話し始めた。
私は思わず心拍数が高鳴る──高なる──たかなる。
恐い。
彼はいったい何を言い出すんだろう?
まさか今頃になってあのときの5,000円を返せとか!……イヤイヤ、
私は心の首を振る。冗談を言ってる場合じゃない。
彼はこれまで見たこともないくらい真剣な顔で私の足もと辺りを見ているのだ。
「何?言いたいことって」私は唇を開き、変なセリフを話した。
まるでドラマの中みたい。右手の人差し指の先がおかしな熱を帯びている。
「実はさ……俺……今日は君に言わなくちゃならないんだけど……」
ハッキリしろよ!
私は叫ぶ。もちろん心の底で。
うつむいた彼氏の中ぐらいの長さに伸びたツンツンした髪の毛の間から、左側の耳たぶが露出してる。
私は唾を飲み込む──ごくん。
大丈夫、気づかれてない。大丈夫。
「実はさ……俺……君のことがさ……」
彼らを近くに建つ高層ビルの16階から見下ろしていた僕は、小さなため息をついた。
やれやれ。
地球は今日だって回る。まるで愛を歌う九官鳥のように。