61 :
中村文則『土の中の子供』130枚 ◆T61/rdmlFM :
私は二十代男のタクシードライバー。今日も池袋駅東口にタクシーを並ばせる。
私は暴走族の屯に、煙草を投げつけて挑発した。結果、私は半殺しの目に会った。
アパートに帰ると同棲している湯子が介抱してくれた。湯子はアルコールに依存する日々を送る。
別なとき、私はビルの屋上から身を乗り出し、落下する直前を楽しんだ。私はそうやって自分を痛めつけてしまう癖があった。
私は幼い頃、両親に捨てられた。里親の彼らは、私に暴力を加え続けた。私は殴る蹴るを受けるうちに、それを快楽にもっていけるよう努力した。
あるとき彼らは私をベランダから突き落とし、山に運んだ。そして山奥に穴を掘り、私をそこに埋めた。土の中で私はもがき苦しんだ。
苦しみが快楽に変わり、超人的な力で私は土中から脱出した。
土の中から生まれた私はハイキングコースまで辿り着き、病院へ運ばれ、里親の彼らは逮捕された。
私は施設に入った。もう20年も前のことだ。
電話で湯子が転落事故に遭ったと知らされ、病院にかけつける。私と湯子は互いの不幸話に花を咲かせた。
私は育った施設の長に会いに行き、湯子の入院費を催促した。私はタクシーを深夜に走らせ、熱心に湯子の入院費を稼いだ。
だが外国人のタクシー強盗に遭ってしまい、殺されそうになるも、逃れ、だが逃れた先で、タクシーを暴走させ、ガードレールを突き破り自爆した。
私はそうして自分を相変わらず傷つけてしまう。湯子は言う。弱いものがさらに弱いものを叩く。
私は後遺症があるものの、またタクシーに乗り、池袋駅の東口にタクシーを並べる。
施設の長が実の親が会いたがっていると知らせに来た。私は土の中から生まれた子供なので、実の親などいないと断った。(了)