●●●芥川賞候補予想→受賞作予想17●●●

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37伊藤たかみ『無花果カレーライス』84枚 ◆T61/rdmlFM
陽介は30歳男であり、妻と離婚したばかりだ。子供はいなかったので、また独身生活に戻った。
離婚の原因は、妻が精神の不調を訴えて狂ってしまったからだ。陽介は自分の生活態度のせいで妻がそうなってしまったのかと不安に思う。
久し振りに幼馴染のトモナリと練馬のアパートで会った。小学生のときの文集を二人で見ながら、神戸で過ごした少年時代を懐かしむ。
陽介の母は結婚前に美容師をやっていて、陽介が物心つくとすぐに復職した。
知り合いの美容師と共同出資して美容院を開業したのだが、母はその美容師と仲が悪くなり、店も閑古鳥だった。
母は仕事から家に帰ってきてから、小学生の陽介を殴り、蹴り、暴行を加えた。
陽介は仲の良かった友達には、家で暴行を受けたことを新聞調に書き立てて告白していた。
その新聞をトモナリが担任教師に渡した。担任はすぐさま家庭訪問し、その翌日、母は精神病院に入院した。
母がいなくなり、父がカレーライスを作ったが、非常に不味かった。陽介は母の作ったイチジクカレーが好きだった。トモナリの家がくれたイチジクジャムを隠し味で混ぜるのだ。
母は退院後も暴力や、浮気を繰り返し、旅行先から大量のイチジクを送ってきたりする。結局、両親は離婚して、その後、父子家庭となり、陽介は育った。母とは一度も会っていない。
陽介は母に殴られると、母のおっぱいを殴り返した。陽介のそうした復讐のせいで、母がハッキョー(発狂)してしまったのではないかと不安に思う。
そんな神戸の少年時代の思い出にふけっていた陽介とトモナリは、イチジクカレーを作ろうと提案する。
トモナリは言う。カレーの味は母の味だ。他所のカレーは不味い。カレーの味はその家庭、その母の象徴であると。
トモナリは陽介の母から連絡を受け、陽介の電話番号を知らせていいものかと尋ねる。
陽介は小学生のとき以来、一度も会っていないので驚く。母は乳癌らしい。思い出の母の味であるイチジクカレーをたらふく食べて帰宅後、陽介は母に知らせていいとトモナリにメールする。
陽介の部屋には毎日無言電話が鳴り響く。ハッキョーした元妻からだろうか。母がこの部屋にきたらどんなだろうと陽介は妄想する。(了)