幹彦は三十歳にもなって自立せず、母と二人暮らしをしていた。マザコンであることを自覚している。
父が病死し、兄が家庭を持って独立してから、母と二人きりの生活が幹彦には楽しかった。
幹彦は絵描きだ。美術の講師を勤めているが収入は少ない。
たまに彼女のアパートに泊まりにいく。彼女は幹彦の裸婦モデルだった。今は介護施設で働いている。
幹彦が彼女のアパートに泊まりに行ったときに、自宅の前の崖が崩れ、自宅が倒壊し、土に埋もれてしまった。
災害現場の前で、幹彦は母の生死を思い、レスキュー隊がちっとも来ずに、狂乱する。
結局、母は死んでいた。幹彦は母との思い出に浸る。子供の頃、小鳥を飼っていた。小鳥は幹彦になついていた。
母が鳥かごから逃がしてしまっても、幹彦が学校から帰ると小鳥も帰ってきた。
小鳥が死んだときは、幹彦は絶望し、代わりの小鳥を買ってきた両親に、それを破棄するよう求めた。
幹彦は小鳥の絵を描く。美大などでは、死んだ小鳥を描く名人だと評判になる。
自宅が潰れてから、幹彦は兄の家庭に住み込んだ。兄の嫁の母がボケていて、幹彦は講師の仕事もやめて、そのボケた母の面倒を見る。
あまりにも幹彦が母の面倒を熱心にみるので、兄の嫁が気味悪がる。兄は幹彦を叱った。死んだ俺達の母は、嫁のボケた母ではない。幹彦は錯覚していると。
それに対して幹彦は反論する。代わりがきかないことは、子供の頃に飼っていた小鳥の件ですでに理解していると。
幹彦は倒壊した家を毎日訪れ、茶碗だったり、残っていたものを拾い集めた。
彼女もやってきて、幹彦と一緒に拾う。彼女はマンションを購入する計画を披露し、兄の家をやめてうちに引っ越してこいと迫る。
幹彦は彼女に、もし母が生きていたらと、介護生活の妄想を話し出した。(了)