●●●芥川賞候補予想→受賞作予想15●●●

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536芥川賞選評 ◆T61/rdmlFM
村上龍……阿部和重のグランドフィナーレは、犯罪者の心理を一人称のわたしで書くという無謀な作品だ。
なぜ無謀かといえば、一人称の視点とは常に自己批判性を持っているのであり、
その点、犯罪者は自己批判性を持っていないがために犯罪者であるからだ。三人称で書けば犯罪者の怖さが出ただろう。
だがこの作品を受賞に推した。それは群像の後輩だし阿部君は芥川賞を受賞するに値する作家だからだ。

池澤夏樹……メロウ1983を推した。できる限り無意味な文章を創作することを念頭に置いた作者の試みは見事に
成功している。伝書鳩サムの話など哀切すら漂う。だが他に全く推す委員がいなかった。
仕方なく二度目の投票からグランドフィナーレを推した。
理由は前回候補のニッポニアニッポンが傑作であったことと、阿部氏が芥川賞受賞に相応しいからである。

石原慎太郎……今回は非常に低調で、唯一評価できるのは医師の日常を描いた石黒達昌・目を閉じるまでの短い間である。
死んだ妻への葛藤など書くべき余地はいくらでもあるのに、短く小さく纏めてしまったのが残念だ。
受賞作は論外で最後まで受賞に反対した。マーケティングリサーチに基づく駄作だ。
賞は作品に与えられるべきであって、作家に与えられるべきでない。
こうした受賞が続けば芥川賞にとって不幸な未来を辿るだろう。
537芥川賞選評 ◆T61/rdmlFM :05/02/10 20:57:20
山田詠美……人のセックスを笑うなのお子様モードにはちっとも笑えません。
野ブタはとってもキュートでした。もっと人物造詣を詳しく書けば尚宜しい。
作者の若さを別にしても、とてもよくできた作品です。推したのに受賞できなくて残念。
グランドフィナーレはちっとも面白くなかったけど、阿部君には受賞してほしいので推しました。

河野多恵子……野ブタをプロデュースは近年の新人作品の中で稀に見る傑作だ。
子供達が過ごす学校という場所の政治や暴威を見事に抉りだしている。受賞まであと一歩だった。次回作に期待。
漢方小説は過不足ない文章で、脂肪膨れの小説が多い中、出色だろう。
グランドフィナーレは田舎に戻ったらなぜ主人公は改心するのか、まったく必然性のないでたらめ作品であった。

宮本輝……漢方小説を推した。読んで大変癒された。漢方以外の部分でストーリーが盛り上がれば
もっと良かった。推す委員も少ないので、受賞作を出すべきだと思い、
二度目の投票からは野ブタとグランドの両方に投票した。
538芥川賞選評 ◆T61/rdmlFM :05/02/10 21:04:28
古井由吉……目を閉じるまでの短い間は、人や植物や自然や宇宙が等価に扱われていて見事だ。
生命の短さと宇宙の長さとの対比に泣かされた。なぜ推す委員が少なかったのか非常に謎だ。

樹のぶ子……グランドフィナーレは肩パットの入ったような文体で読むのに苦しいのだが
その苦しさが主人公の抱えている問題の苦しさに通じ、独特の効果を獲得していた。受賞に推した。
野ブタと人のセックスは幼稚さが目立ち、読んでいて違和感が付きまとい評価できなかった。

黒井千次……グランドフィナーレはそれほど良い作品ではないが、阿部氏が芥川賞を受賞することに異論はない。
野ブタや人のセックス、漢方小説の三作は現時点では評価できないのだが
非常に可能性を感じる作者達だった。是非次回作が読みたい作家達だ。

三浦哲郎……欠席。選評なし。