自称作家cさんの小説
366 :C ◆7sqafLs07s :04/10/20 09:51:15
どうしてもまた、あの日に戻る。戻ってあの日を生き直してしまう。あの日、僕はマチ針で自分の運命を突き刺した。
すべてが白のこの部屋で、僕は毎朝あの日に戻る。
「朝食ですよ」
戻りかけていた僕の意識を優しく澄んだ声が覚醒させる。僕の地獄を呼び覚ます声の持ち主を僕は感じる。
田中さんの声だ。いちばん若い看護婦。看護士と呼ぶほうが適当らしいけど、彼女たち自身、今はまだ看護婦を自称している。
チューブから流れてくる何か。これを朝食だと信じることは不可能だ。でも僕は瞳すら動かせない。拒絶する術が存在しない。
「ちゃんと栄養とらないとね」
僕に向かって投げられた言葉。でも彼女は僕を見ていない。見るのは機械とチューブだけ。
目を見開いたままぴくりとも動かない僕自身のカラダ。機械やチューブのあれこれが僕という命を代表する。
「はい、おいしかった?」
こうして僕は、舌も喉も通過せず何かがチューブを通るだけの「朝食」を終える。
「じゃあ次はお注射の時間にね。今日は、面会の方も来るから元気にしていないとね」
注射に「お」なんて必要ないけど、舌を噛み切る元気は欲しい。
ドアの閉まる音を聞きながら、僕は思う。
それは自殺だろうか。違う。人をやめることを自殺と呼ぶのなら、僕の願うのはそれとは違う。
僕はむしろ人に戻りたいんだ。舌を噛み切るためだけだとしても、僕自身のカラダで人として生きたい。
今、僕という人間は機械の針だ。
メーターの行ったり来たりが僕の命。動かなくなれば僕の死だ。
……機械の針って自殺するのか?
自殺するのは人間だ。僕はヒトとして死にたいだけなんだ。生きるって結局、死ぬことじゃないか。
窓の外に小鳥が鳴いている。涙も、もう流れないのに。流れぬ涙のぶんだけ、鳥達の声がよけいに鋭く突き刺さってくる。
あの日僕が刺したマチ針のように、僕自身の運命を、無邪気な鳥の声たちが、鋭く鋭く抉ってくる。
(続く)
雑感
自分の作風いじるのって難しいな。まあこんな感じの文体で進めてみよう。一人称自体あまり使わないから苦戦しそうだ。
自称作家cさんの詩
119 :C ◆7sqafLs07s :04/10/15 17:33:45
アオパシャと呼ばれた悪魔について
それは漆黒の馬/無毛の体躯/
この悪魔のもたらす祝福は/生を死に変え/地を野に変える/
まことの旱魃/まことの簒奪/
でありながらこの馬に/孤独の光がその瞳に/
君よ、ともに食む草を/ともに駆ける友を/失わせてしまう君の呪縛よ/