私はホテルに勤めることになった。オテル・モルはビルとビルの間の路地を行った先に入り口があり、
地上部分はなく地下十三階建てのモグラホテルである。
お客は入会するのに審査もあり、真の睡眠を求めたリピーターばかりで占められている。
私はチェックインからチェックアウトまでフロントを預かる。
夜中にエントランスでロックをかけて踊っていたら、翌朝お客様が皆ほてった顔をしていた。
経営者の外山さんに叱られる。空調が建物内共通のため私の熱気がお客様の睡眠を邪魔してしまったのだ。
外山さんはたまにお客様と面談をして、見えていた夢を書き綴る。
お客様の大半は睡眠中に悪夢にうなされることが多く、オテル・モルの快適な睡眠を求めて非難してくるのだ。
私には双子の妹がいる。彼女は生まれつき体が弱く、入院ばかりしている。私は妹の娘と旦那と三人で奇妙な共同生活を送っている。
私がホテルに勤めだしたのは、妹の娘が小学校に入学したのを期に距離を置こうと思ったからだ。
妹が久し振りに病院から自宅に戻ってきた。妹は夜中に家を抜け出して、私の勤めているオテル・モルに泊まりにきた。
外山さんは渋い顔をしたが許してくれて、妹は床に就いた。
翌朝、オテル・モルに泊まった全てのお客様が寝坊をしてしまった。
妹は健やかな顔で最後に起きて、入院をやめて家に帰ることを私に告げた。