文学板住人はイラク人質事件どう思う? Part2

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450吾輩は名無しである
この事件では全てが「諸刃の剣」――お祭り2ちゃんねらーには分かるまい

1.費用請求

外務省は、イラクの邦人人質事件の被害者に対し、費用の一部を
請求するつもりらしい。
http://www.sankei.co.jp/news/040417/sei048.htm
このニュースを知り、一部のスレッドでは、例によって例のごとく
「祭り」が始まっている。いわく、外務省が請求するのは、費用の
ごく一部だけだ(数十万円?)。いわく、今回の事件解決に政府が
要した費用は、数十億円にものぼるはずだ。いわく、解放された
人質とその家族に、全額払わせろ。

しかし、普通の社会人(例えば会社員)ならば、次のようにも考えるだろう。
「我が社も、イラクはともかくとして、南米など治安の悪い国に、
社員や関係者を送り込んでるよな……」
451吾輩は名無しである:04/04/25 19:32
(続き)
「外務省は『退避勧告を出していた』と言うが、外務省のサイトを
見ると、いろんな国・地域が『危険』とされている。『前もって警告
しましたよ』という、いわば『外務省免責条項』か?
それに従って、必ず撤収していたら、ビジネスが滞ってしまう。
大きな声では言えないが、会社としては、ギリギリの所で
危ない橋を渡る時もある」
「その場合、仮に我が社の関係者が人質になったとする。『金儲けの
ために、外務省の勧告に背いたんだから、自己責任(会社責任)だ!』
と言われるのだろうな」
「その場合、現地大使館や日本政府のお世話になるだろうが、
我が社に政府費用を全額請求されるのは、大変困る」

そう、数十億円にのぼるような総費用を支払えというのは、非現実的
である。イラクとそれ以外の国、フリーの個人と会社員を差別する
法的根拠も、ない。
452吾輩は名無しである:04/04/25 19:32
(続き)
外務省も、そこのところは分かっていて、今回請求するのは、
いかにも支払えそうな金額のようだ。ただし、追加請求もあり得る
らしいが。
しかし、2ちゃんねるで「祭り」に興じているような人は、
どうせ、まともな会社に勤めてもいないので、「もし我が社の……」
とは考えもしないのである。
「祭り」状態のスレッドで、その祭りを批判しても無駄なので、
比較的冷静なこのスレッドに書いてみた。

2.テロには前線も後方もない。「その場しのぎ」の反応

今回、誘拐事件が起こったのは、少し以前から「最も危険」と
いう情報が伝わっていた、バグダッド西方の辺りである。
「そんな所に自分から飛び込んでいった(通過しようとした)
3人(+2人)が、バカ」という非難の嵐が巻き起こっている。
453吾輩は名無しである:04/04/25 19:34
(続き)
その非難は、それ自体は正しくもあろう。しかし、その一方で、
「テロには前線も後方もない」ことも、認識しなければならない。
例えばの話、日本のどこか田舎で、外出許可中の自衛隊員(海岸で
一人、黄昏していた)が誘拐されたとする。犯人の要求が、「イラク
の自衛隊を撤退させろ」だとしたら? 「日本で誘拐されて、
なぜ要求はイラク? 日本にアルカイダ?」と驚いても、遅い。

つまり、「自己責任」を突きつけて、今回の5邦人を責めてみたところで、
「その場しのぎ」に過ぎないのである。テロには、前線も後方もなく、
いつどこで起きるか分からない。「確率として危険度に差があるだろう」
というだけである。それなのに、2ちゃんねるの祭りは、「イラクに
行くのがバカ」という合唱で盛り上がっているようだ。
その「バカ」呼ばわりは、諸刃の剣である。人に「自己責任」を言う者は、
(たとえ日本にいても)自分の自己責任も意識しなければなるまい。
今日の世界は、既にそういう状況になっているのである。
454吾輩は名無しである:04/04/25 19:38
(続き)
3.ボランティアやNGOだからこそ、助かった

解放された人質に対し、「フリーの個人が勝手にイラクに行った。
自己責任だぞ、分かってんのか!」という非難が集中している。
その声に便乗してか、政府与党からも、被害者を責める発言が
相次いでいる。実際、日本政府にしてみれば迷惑千万であろう。

しかし、米国務長官や、フランスの代表的な新聞「ルモンド」は、
日本人の元人質を弁護している。
パウエル国務長官「日本人は3人を誇りに思うべき」
http://www.asyura2.com/0403/war52/msg/802.html
> また、パウエル長官は日本の一部で人質になった人の自己責任を
> 指摘したり、軽率だなどと批判する声が出ていることについて、
> 「危険を知りながら良い目的のためにイラクに入る市民がいることを
> 日本人は誇りに思うべきだ。(中略)」と述べていました。
455吾輩は名無しである:04/04/25 19:38
(続き)
「日本にも新世代育つ」 仏紙ルモンドが3邦人の行動を弁護
http://www.asahi.com/international/update/0417/011.html
> 「事件は、外国まで人助けに行こうという世代が日本に育っている
> ことを世界に示した」として、「無謀で無責任」と批判されている
> 元人質を弁護している。 (中略)
> 「軽率で無邪気すぎるかもしれないが、ネクタイ・スーツ姿と
> 夜遊びギャルの間に、激変する社会に積極的にかかわろうとする者が
> いることだけは分かった。彼らは自分なりに世界を変えたいと考えている」

まあ、これは外交辞令(お世辞)であって、米・仏も、自国の国民が
同じようなことをしたら、説教するのかも知れない。
しかし、対外支援などの仕事は、政府関係者や自衛隊員だけでは
実行できず、NGOやボランティアなどの、奇特な人々の力を借りて、
やっと達成しているのが実情である。
それなのに、事件が起きると厄介者扱いというのは、ずるい話ではないか。
456吾輩は名無しである:04/04/25 19:40
(続き)
「ボランティアは確かに立派だが、今回の人質に限って言うと、変な人
たちだった」と批判するのは、前述したように「その場しのぎ」である。
その批判は傲慢であり、今も世界各地で尽力しているNGO活動に、冷水を
浴びせるに等しい。ルモンド紙は、その辺のことを考えているのだろう。

また、マスコミ各社が記者を引き揚げた後も、フリージャーナリストが
危険な地域にとどまっているからこそ、我々はぬくぬくとニュースを
見聞きできる。フリージャーナリストも引き揚げてしまえば、現地の情報は、
米軍発表と、ゲリラ側の宣伝的情報くらいしかない状態になるだろう。

報道などによれば、人質解放の理由は、人質が占領軍の関係者ではなく、
イラク人民に同情的な人であることを確認したため、などらしい。
結果論だが、ボランティアでイラクに行くのは、案外危険ではないことに
なる。むしろ自衛隊員の方が危険だ。万一誘拐されれば、殺害される可能
性が高いだろう。そうやって差をつけるのは、誘拐犯側の戦略でもあるが。
457吾輩は名無しである:04/04/25 19:41
(続き)
「自衛隊員は公務でイラクに行っている。自分の勝手で行く人とは違う」
と強調するのは、諸刃の剣である。
それはつまり、「危険な仕事を自衛隊員に押し付けている」ことを
意味するからだ。「それが彼らの仕事だ」という理屈は、無神経な
一面がある。軍人・自衛隊員にも、我々と同じ赤い血が流れている。
パウエル長官の発言は、その辺のことまで考えているのだろう。
米国政府の立場からすれば、「今のイラクは大変危険」「民間人では仕事
にならない。軍隊でなくてはならない」と強調されるのは、困るのである。
米軍による占領統治は上手くいってない、と強調されるのに等しいからだ。

私は、コテコテの日本人に過ぎない。しかし、「人質解放を喜ぶよりも、
自己責任だと言って責める」という日本の反応を、外国から見れば、
次のような皮肉な分析が出てくるのでは、と予想する。
「日本人は、イラク復興支援などという、厄介な外国の問題なんか、
本当は取り組みたくないんだな。米国や自国政府に押し付けている」
458吾輩は名無しである:04/04/25 19:41
(続き)
「それなのに、自分たちと大差ない一民間人が、問題に取り組んだり
するのを見ると、腹が立つんだろうな。
『公務なら仕方がない』や『個人が自分の意志で動くと、世間に
迷惑がかかる』は、それ自体は正論かも知れない。しかし、そういう
正論はあっても、『本当にイラクの人々のためになることは何か、
何ができるか、一日本人として考える』という情熱はないんだな」

人質たちにはその情熱があり、それを認められて解放されたとも考え
られる。言うまでもなく、そんな解放の基準は、誘拐犯側の戦略でも
あり、世界の世論の分断を狙っていると見られているが。

思うに、「テロには屈しない、テロリストの要求は受け入れない」という
決意だけでは、問題は解決しないのである。テロの背景をなしている、
おびただしい異国の人々の気持ちを思う想像力もまた、必要なのだろう。
今回の事件で「自作自演」説に踊った2ちゃんねるは、もはや死んでいる。