アンチドストエフスキー総合スレッド

このエントリーをはてなブックマークに追加
225吾輩は名無しである
「彼は自分の意地悪さを抑えることができなかったので、こういう場面はしょっちゅうありました。
わたしは、彼がまったく女の腐ったように、不意に、ひねくれた態度でふるまう非常識に何度も
口をつぐみましたが、二度ほど、大変手きびしく言ってやったことがあります。けれども、もちろん
侮辱のことでは、彼は概してふつうの人間よりもうわてでした。なによりよくないのは、彼がそれを
楽しんですらいたことで、どんな卑劣なことをしても決して自分が悪いとは思わなかったことです。
彼は卑劣なふるまいに興味をもって、それを吹聴しました。ヴィスコワートフはわたしに、
女性家庭教師が彼のところに連れて行った幼い娘を風呂の中で……したことを彼が自慢したと
語りました。このさい、かれの動物的な情欲には、女性の美や魅力に対する好みも感情もまったく
ないことにご注目ください。これは彼の小説を見さえすればわかります。彼に一番似ているのは
『地下室の記録』の主人公、『罪と罰』のスヴィドリガイロフ、『悪霊』のスタヴローギンです。
スタヴローギンの或る場面(少女陵辱そのほか)をカトコフは印刷したがりませんでしたが、
ドストエフスキーはここで多くのひとに読んで聞かせました。
こうした性格にもかかわらず、彼は、あまい感傷、高い人道的な夢想をひどく好み、そしてこれらの
夢想が彼の方向、彼の文学的ミューズ、道だったのわけです。しかしながら、彼の小説はどれもこれも
自己弁護で、人間には高潔さとともにどんな卑劣さも同居できることを証明しています。」
(続く)