俺でも賞取れるんじゃない?

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183おさむ@芥川 ◆UvGJoaFDw6
「所で僕らここで何していたんだっけ?」
 あたりを見回すとここは喫茶店で、ウエイトレスが膝上五センチくらいのスカートをはいていた。
ウエイトレスは肌色のパンティストッキングに足を包み、彼女の足はパンティストッキングでとても美しく丁寧に飾られていた。
僕は彼女の足に満足した。
勿論――僕は知っていた。
肌色のパンティストッキングはショーウインドーのガラスケースのようなもので、パンティストッキングの中にある足はまだ僕のものではないことくらい。
彼女が本当に愛する人に足を見せるときには、パンティストッキングなんてはかないことくらい。
でも僕にはそれがたまらなく魅力的だ。
184おさむ@芥川 ◆UvGJoaFDw6 :04/01/23 22:36
「相談」
 友人は答えた。
僕らの前には溶けかかった氷の入ったグラスが置いてあった。
そしてグラスの容積の三分の二を占め氷を溶かしているものは、僅かに泡を吐き続けていた。
色は殆んど黒かったけど、ほんの少しだけ端っこが茶色いのが見えた。
たぶんコカコーラーだろう。
 グラスには沢山の雫が付いていて、それが下に流れ落ちて小さな水溜りを作っていた。
そして、その上に優しく光が降り注いでいた。
光は窓から半分ほど下げられたブラインドの隙間から射していた。
グラスはその光を幾つかに解き開き、分解された光はグラスの側でキラキラと舞った。それらはキラキラしていた。
185おさむ@芥川 ◆UvGJoaFDw6 :04/01/23 22:38
「何の?」
 隣の席に料理を持ってきたウエイトレスはクルリと僕らに背を向け、少しかがんで料理を置いた。
実に見事な手さばきだったから、ほんの少しも音はたたなかった。
ウエイトレスがかがんだ時、彼女のウエスト辺りに寄っていた皺がピンと張った。
でもそれにも増して、彼女のヒップにぶつかっている生地は殆んどはちきれそうなくらい張っていた。
僕はそれがたまらなく魅力的に思えた。
勿論――僕は知っていた。
彼女が愛する人にヒップを見せているとしたら、その時にはスカートを穿いていないことくらい。
そして、僕の彼女のヒップに対する思いを彼女が知ったら快くは思わないことくらい。
186おさむ@芥川 ◆UvGJoaFDw6 :04/01/23 22:38
「そんなことも、思い出せないのかい?」
 友人はタバコを取り出した。
タバコの箱には金の鳥が草を咥えているのがプリントされていた。
それはきっと世界平和への願いを表わしているのだろうと僕は思った。
事実、タバコの名前はピースだった。友人はタバコの先をジリジリと火で炙った。
そして、おちょぼ口になってタバコの先っちょを軽く吸った。
一部の淀みもない何気ない仕草だった。
きっと彼は何回も訓練をしてこのようなスムーズな身のこなしを獲得したのだろう。
多くの淀みない仕草が我々の気を引く。友人の行動も実にスマートだった。
 煙がタバコの先端部から立ち昇り、空気に掻き乱されながらも大まかには規則的に天井の方へ消えていった。それは友人の口から出てきた煙にも共通することで、そちらも大雑把に見れば、天井の方へ消えていった。
187おさむ@芥川 ◆UvGJoaFDw6 :04/01/23 22:40
「うん。まるっきり」
 斜向かいに二人連れの女性が座っていた。
仕立ての良いベージュのコートが綺麗にたたまれて椅子に置かれていた。
柔らかそうな毛糸のセーターを着ていた。
毛糸のセーターは二の腕の途中で切れていた。そういう作りらしかった。
 二人とも判で押したような似たような格好だった。色のみ違っていたけれど。
 僕の向かい側の女性はパンプスを脱いで、足先でもてあそんでいた。それらはテーブルの下で密やかに行われていた。
彼女たちも足には肌色のパンティストッキングを付けていた。
向かいの女性は緩慢な、そして魅惑的な動きでパンプルを転がしたり突付いたりしていた。
僕に近いほうの女性も注意してみると、パンプスを半分脱いで足に引っ掛けてブラブラさせていた。
それらは人間の女性のみが持つ求愛行動なのかもしれない、そう僕は思った。
188吾輩は名無しである:04/01/23 22:41
コカコーラー?
189おさむ@芥川 ◆UvGJoaFDw6 :04/01/23 22:41
「よーく思い出してみろよ」
 友人は吸いさしを灰皿に置くと時計に目をやった。
時計の秒針は左側の四分の三くらいの位置を指していて、短針は二時と三時の間くらいを指していた。おのずと時計の長針は
時計の下部の真ん中あたりを指していた。秒針はとても忙しなく動き回っていた。他の二つの針はとてもゆっくりと移動し続けていた。
 秒針は短針を追い抜いて、それから長針を追い抜いた。時計の針の中では秒針が一番時計のあらゆる方向を数多く指しているに違いないと僕は推論した。
では秒針の歯車やネジが一番痛みやすいのではないか?そして短針が一番長持ちなのでは?
僕は推論を推し進めた。ならば、おのずと長針は二つの針の半分くらい傷んでるんじゃないのかな。


             〈了〉