羽田圭介『黒冷水』
今話題の、文藝賞史上最年少受賞作品ということで、
あまり期待せずに読んでみたのですが、完成度の高い見事な作品でした。
確かに文章・文体にまだ粗さや稚拙さが散見されるのですが、
全体としてみた作品の構成力や筆力・人間心理の描写力は、
近年の新人作家の中では突出したものが感じられ、
その作家としての資質・才能は、以前、平野啓一郎に冠せられた
“三島の再来”という表現はまさに彼のために妥当するのでは?と
私には思われました。ちょっと褒め過ぎかもしれませんが・・・
作品のテーマ自体は家庭内での兄弟間の反目・いざこざ・憎しみ合い・暴力
といった取るに足りないものですが、そこで描かれている人間心理の闇・深層心理
といったものからは、とても17歳の少年によって書かれたものとは思えない程の
鋭い洞察力を感じ(あたかもドストエフスキーのような)、強い衝撃を受けました
(特に兄の“正気”が机あさりをする弟の“修作”にトラップをかけ、
修作が正気の目論見にまんまとひっかかるくだりは素晴らしかった!)。
日常茶飯事の、誰でも一度や二度の経験や覚えがある“兄弟間での机あさり”
というごく些細な出来事から着想を得て、これ程の読み応えある作品を作り上げた
著者の創造力一つをとってみても賞賛に価いすると思います。
今後の著者の成長が非常に楽しみです。