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吾輩は名無しである:
宮本輝「幻の光」新潮文庫
人間の不条理な死をめぐる生者の回想の短編集。
その死についてのあからさまの悲しみ・情念が奇妙に抑制された回想は
やはり不自然であり、その不自然さがなんともいえない恐怖感を感じさ
せてくれる。
この小説は現実に不幸な人にとってはかけがえの無い一冊になるのかも
知れないが、普通の人でかつ感受性の豊かな人にとってはあまり楽しめ
る代物ではない。
この不自然さがもう少し無くなれば宮本輝は万人に受け容れられる作家
になると思うが、その時点で宮本輝の創作の磁場は空っぽになっている
だろう。
まあ私の感性には合わないし、かつ古今東西の名著に指定されている訳
でもないし、主要な文芸評論家が本格的に論じているわけでもないので、
もうこれ以上他の著作を読む必要もあるまい。