「ほんとうのハウンド警部」
(トム・ストッパード/喜志哲雄訳/白水社「現代世界演劇7」)絶版
→1968年初演のわりあい新しいイギリスの戯曲。
これを読もうと思ったのは以前に読んだ「はじめての劇作」という本で
>>21 お薦め作品になっていたから。「『ほんとうのハウンド警部』は、劇作家が
避けるべきすべてのことをおもしろおかしく(そしてかなり意図的に)描いた
作品として、ぜひ一読することをお勧めしたい」(P130)。
幕が上がると、舞台後方に観客席がある。そこに劇評家がふたり座っている。
そのまえで(もちろん観客のまえでもある)繰り広げられるのが、ふざけたお芝居。
いきなり登場人物が自己紹介をしながら登場したり(w
しかし出演する女優をものにしようと狙っている劇評家はこのお芝居を激賞する。
演技論で口角あわをとばす。さて、舞台のうえの芝居がいったん幕を閉じる。
休憩中に劇評家がそのお目当ての女優と話していると、あらら、お芝居が始まってしまう。
まえの芝居で役者だったものがちゃっかり劇評家の椅子に座っているではないか。
声高に演技論を語っていた劇評家がいざ舞台に立つと大根役者であるというアイロニー。
けっきょく劇評家はなにもできずにみじめに殺されてしまう――。
「不条理劇」と呼ばれる演劇です。
考えさせられる。私たちはテレビで見るニュースに劇評家よろしくいろいろと注文をつける。
代議士の謝罪を見たら芝居がかりすぎだの、浅野養鶏場の会長の自殺を見たら演技が下手だの。
が、果たしてどうか。いざ自分が舞台に立つ羽目に陥ったら……。
舞台に立ちたくても立てない役者志望に、強引に舞台に引っ張りあげられる一般人。
げに恐ろしきは演出者かな、神という名の。