新スレ相談室

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244石黒達昌「目をとじるまでの短い間」100枚 ◆T61/rdmlFM
私は大学病院で外科医をしていた。妻が癌になり、私は担当医として抗癌剤の新薬を使おうと決めた。
だが新薬が原因で妻は死んだ。私は製薬会社を批難する論文を書き、責任をとって大学病院を辞めた。
幼い娘を連れて、故郷の北国に戻った。過疎の田舎町だ。
実家の診療所は、医師である父が病気になり入院したのを期に、私があとを継いだ。
幼い娘は自宅と繋がっている診療所に入り浸るようになり、入院患者たちと共に暮らした。
入院した父が造った花壇を、私と娘で面倒見るようになる。薔薇を育てた。
田舎の診療所は儲からず、私は父の車を売った。買ってくれたのは近くに住む脇田君で、昔製薬会社に勤めていたという悪い噂の男だ。
脇田君は自動車で事故を起こし、診療所に担ぎ込まれる。
脇田君の素性がばれ、核廃棄物の処理施設をこの町に作りたい会社の差し金だった。
腹液を抜いてもらいたい患者が来たが、抜本的な治療にならず悪化するだけなので
私が断ると、その患者は農薬を飲んで、重体で診療所に担ぎ込まれた。
抗癌剤治療のために大学病院に行ったはずの松本さんが田舎の診療所に帰ってきた。
ちっとも良くならないからだそうで、松本さんはすでに余命幾許ない末期だった。
松本の希望で、死ぬ間際にも関わらず、シリコンの胸をつけてあげた。
薔薇の花は見事に咲いた。私は医療の虚しさを抱えながら、今日も診療所で働く。(了)