しょっぱい芥川賞作家大道珠貴を語るスレ

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51工藤伸一 ◆H/j1HkWi6c
昨日、受賞作を読みました。色々と書きたいことはあるのですが、とりあえず
簡単に書いておきます。主人公ミホは海沿いの田舎町の出身で、年齢こそ30半ば
ですが、数年前に憧れの小劇団の主催者の男性に処女を奪われたばかりで、つい
最近まではそれ以外に男性経験がなかった奥手な女性です。ミホが幼い頃から両
親や兄ともどもに金銭的援助をしてくれていた人のいい九十九(つくも)という
おじさんが近所に住んでいて、恩返しのつもりもあっていつのまにかミホはその
おじさんと肉体関係を持ってしまうのです。地味で目立たない女であるミホは、
小劇団の主催者の男にはちょっと遊ばれただけだったのです。それは知っていな
がらもいまだに未練を感じているのです。でも実際には彼を遠めに見守りながら、
好きというわけでもないおじさんとデートを重ね続けているわけです。そんな自
分の立場をわずらわしく感じながらも結局は面倒くさくなってその場その場でこ
ろころと変わってゆく思いつきのままに適当に流されて生きている主人公の生活
は大して面白い事もなく平凡なものです。しかしそこには悲壮感のようなものは
感じられず、むしろすがすがしくさえあるのです。また、幼さと計算高さの入り
混じった主人公の心象風景には、特に年齢を感じさせる印象がありません。とこ
ろどころに出てくる表現のユーモラスさが作品の軽い感じを演出してくれています。
個人的には田舎町を舞台としているということから受けるレトロないじましさが
うらやましく思える部分もありました。文章が読みやすいので読書経験の少ない人
でも読めるでしょうし、昭和初期を思わせるような何もない田舎の情景は、年を
とった人にも何らかの感慨を与えるでしょう。読者層を選ばない作品だと思いました。
しかし時間軸の入り乱れた構成や、心象風景と出来事中心の文章中に折をみては極め
てさりげなく挿まれる情景描写といった技術面も素晴らしいです。一見、技巧的でない
ように見える苦労を感じさせないところがすごいと思いました。