「伸びやかで、寛やかで、しかもまっすぐで、ヴァイタルで、
優しくて、美しくて、聡明で、そしてそれ等のすべてが合わさって、
あたたかく深い品格を形成している。」(色川武大)
しかも、絶妙に間抜けで可愛い、天性の文章家、
武田百合子さんを、楽しく語りましょう。
2 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:36
しろ2
3 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:36
ナオミは紅色
あぼーん
あぼーん
あぼーん
7 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:49
あぼーん
9 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:51
10 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:52
俺はDIC特色143だね
11 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:53
12 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:55
(´-`).。оΟ(文学シュッポッポの方が盛り上がったなぁ…。)
14 :
吾輩は名無しである:02/10/12 19:56
うぜえよ常時age。
立
初 て
め て
て み
駄 わ て
ス か
レ る
か
圖 な
Λ_Λ
( ・∀・)
( )
常時山本
17 :
吾輩は名無しである:02/10/12 20:05
宮本百合子のスレ
あぼーん
19 :
吾輩は名無しである:02/10/12 20:08
20 :
吾輩は名無しである:02/10/12 20:15
「ことばの食卓」が大好きです
本当に、感覚がふつうではないと思う
もう亡くなってるけど、この人はどんな風に動いたり
しゃべったりしてたんだろうと不思議になる
こういう感覚を持った人、作為的にじゃなく表現できる人
他にいるんだろうか
て読む度に思いまーす
21 :
吾輩は名無しである:02/10/12 20:54
なにこのスレ、マジレスはだめなの?
22 :
吾輩は名無しである:02/10/13 00:09
名前だけは知ってるけど、武田百合子さんって元々何する人なんですか?エッセイスト?
23 :
吾輩は名無しである:02/10/13 00:13
泰淳の妻
なんか旦那が亡くなったあとにエッセイ出したら
けっこうウケてしまった、っていう感じ?
24 :
吾輩は名無しである:02/10/13 00:21
1よでてこい
25 :
吾輩は名無しである:02/10/13 00:39
うわ。
何か、大変なことになってるね、、、
マジレスつけてくれた人、ありがとう。
百合子さんは、泰淳氏が無くなった後、
彼と娘(写真家の武田花さん)との、
富士の山荘での生活を書き溜めた日記を出版。
これが、後見人的な戦後派の重鎮たちにとどまらず、
読書人に広く支持されて、
続いて「富士日記」から漏れていた泰淳氏、竹内好氏とのロシア紀行日記
「犬が星観た」を発表。
その後「言葉の食卓」「遊覧日記」「日々雑記」と、
ゆっとりとしたペースでエッセイを発表。
当時「海」の編集だった村松友視ら
(彼は色川武大と、「武田百合子さんに小説を書かせる会」を結成)
多くの出版関係者、読書家から、小説執筆を熱望されながら、
「武田が笑います」と、固辞し続けたということ。
詳しくは村松の評伝、「百合子さんは何色」(ちくま文庫)を参照。
27 :
吾輩は名無しである:02/10/13 01:40
去年、「富士日記」に出会って以来、
武田百合子の文章が大好きになってしまいました。
最近、女性誌でもおすすめの本にあがっていたりして
知らなかった人が手に取る機会も増えてそうな感じ。
角田光代や川上弘美なんかも紹介してたと思う。
一部の読書好きの女子のあいだでは、割とよく読まれてるような
気もします。おもしろいですよねえ。
「ことばの食卓」とか、何度も繰り返して読んでしまった。
28 :
吾輩は名無しである:02/10/13 13:08
びっくりするような思い付きを、淡々と書いてるのがスゴイ。
作為や計算が、全然感じられないのも。
ロシア紀行「犬が星見た」も、いいですよ。
泰淳の「目まいのする散歩」にも、同じ旅行記が入ってるので、
それぞれの視点を読み比べられます。
ところで1は「未来の淫女」は読んでるのかな?
>29さん
未読なんです。
全集にも入ってないし、古書でも発見できなくて。
「百合子さんは〜」で部分的に内容うかがう程度。
なんとか、読んでみたいですね。
読まれた方、感想希望です。
31 :
吾輩は名無しである:02/10/13 14:57
岡崎京子も愛読書に挙げてたね。>「富士日記」
32 :
吾輩は名無しである:02/10/14 23:05
1さんはもっと自己顕示欲があってもいいと思います
下がりすぎage!
>32さん
すみません。
ここ、まだあまり慣れてないもので。
みなさん、いろいろ教えて下さい。
よろしく。
「未来の淫女」、あれからネット古書店で発見し、注文しました。
読んだら、また感想書いてみます。
>>32 こういうスレは余りあげすぎず、マタ〜リ進行の方が長続きするのでは?
最初荒らされてたみたいだし。
>>33 感想お待ちしてます(w
実は私、武田泰淳経由で百合子さんに興味を持った口なんです。
富士日記をちょこっと読んだ程度なので、百合子作品についてはいろいろご教示いただければ幸い。
「未来の淫女」は百合子ファン必読だけど(w、
武田泰淳という作家を考える上でも重要な作品。
百合子さんがモデルになってる作品のなかでも傑出していると思います。
つまり、武田が書いた女のなかで「馬屋光子」が最高だってこと。
ラブレターの引用があるんだけど、あれ実際百合子さんが似たようなの書いてたんですかね?
気になるところです。
35 :
吾輩は名無しである:02/10/15 11:21
5郎さん、参加させてください。武田百合子、昔から大好きです。
『富士日記』はたぶん、一生、繰り返して読める本だと思います。
5郎さんは、娘の花さんの本は読まれてますか?
母親の天然=天才にはちょっと及ばないけれど、遺伝子は確実に生きてます。
『季節のしっぽ』なんて文章も写真も伸びやかで素晴らしいです。
このスレ、マターリ続けていきたいですね。
36 :
吾輩は名無しである:02/10/15 11:50
「富士日記」いいですよね
すごくカッコイイ夫婦だなあと思います
泰淳は飄々としていて、懐が深そうだし
百合子さんも、泰淳が冗談で「犬」と呼んだみたいに
夫を心から慕っていたんだろうという感じがします
だから泰淳死後の百合子さんの文章には
どことなく寂しさが漂っているような気もしました
>>36 >百合子さんも、泰淳が冗談で「犬」と呼んだみたいに
まじっすか?
できればソースきぼん。
ところで、花さんの写真集で、運転手のことを「犬」って呼んでるのがあるんだけど、
これはパパの遺伝子なの?(w
花さんの写真、いいですよね。
38 :
吾輩は名無しである:02/10/15 23:42
>>37 ロシア旅行記「犬が星見た」のあとがきに、そのようなことが
書いてあったと思います。
好奇心旺盛で元気な百合子さんを、”おいポチ!”と冗談で呼んだとか。
で、旅行記のタイトルもそんな感じになったのではなったのでは。
「やい、ポチ。わかるか。神妙な顔だなあ」
などという泰淳氏もすごいが、それを受けて、犬が星みた、
とタイトルをつける百合子さんもすごい。
色川武大「あたたかく深い品格」
百合子さんの文章にも、鋭さととぼけた感じが同居した、
ヴィヴィッドな天然味があるけれど、
泰淳氏も、繊細で生真面目なようで、
どこか観念の世界で生きてきた人故か、妙に擦れてないというか、
違った意味で、時にぎょっとなるようなストレートさ、天然さを、
文章に感じるところ、ありますね。
「もの喰う女」の「讃美歌を歌えと命令した」ってところとか、
ちょっとびっくりしました。
なんというか、お2人とも結構タフで、懐深い印象。
>29さん
ラブレターについては、百合子さんは何もおっしゃってなかったと思います。
心に厚着しない、おおらかであけすけなようでいて、
秘めてる部分は決して誰にも触らせない、ってきっぱりした強さ、
清潔さみたいなものが、百合子さんにはありますね。
40 :
吾輩は名無しである:02/10/16 01:40
いかんせん著作が少ないですよね。
富士日記から順に読んでいったのですが
最後の作品「日々雑記」なんか、
読み進めるのが惜しいと感じるほどでした。
なんか、終ってほしくないというか。
小説を書くよう切望されたにも関わらず断り続けたり、
百合子さんはストイックなところがあると思いました。
余計な感傷がなくて、とても淡々としているし。
でも鮮やかなんですよねえ。不思議だなー
なんというか、凄く生命力強い方って感じがします。
それが、観念を通さず直に本質を掬い取っちゃう鋭さも、
きっぱりとした潔さに殉ずる強さも、
根本的な、生き物としての強さから出てる気がします。
変に気張らなくっても、
存在がビッとしてて、気持ち良いんですよ。
花さんは、お2人の内向的な繊細さの部分と、
芯の強い部分を半分づつ受け継がれてる、
という感じを、写真からも文章からも受けますね。
42 :
吾輩は名無しである:02/10/16 02:47
生命力が強いというのはありそうですよね。
そういうのばっかりは、生まれついてのもので
真似できないのだろうな。
元気で、こと食べることに関しての記述はたのしいし
真っ赤な口紅が好き、とか
豹柄のコート着たり
本人の容姿も色鮮やかだったのかな〜と。
カバーの写真なんかを見ると、
はっきりとした目鼻立ちの美人ですよね。
43 :
吾輩は名無しである:02/10/16 03:09
>>「伸びやかで、寛やかで、しかもまっすぐで、ヴァイタルで、
>>優しくて、美しくて、聡明で、そしてそれ等のすべてが合わさって、
>>あたたかく深い品格を形成している。」(色川武大)
ひどい駄文ですよね。
文章をもって言いたいことを伝えるのではなく、
駄文で評することによって
「この作品がどの程度のものか」を
意思表明してらっしゃるんですよね。
それとも、色川って人は、頭の悪い人ですか?
>43さん
う〜ん、、、
引用がよくないっておっしゃりたいんでしょうか。
文意(主語)がもうひとつ、よくつかめないんですが。
43さんは、武田百合子さんの文章、読まれましたか?
引用の文、確かに形容詞の羅列だけれど、
私が百合子さんの文章を読んで感じた印象を、端的に形容するとすれば
正にこれだな、ってふうに的確に響くものがありました。
あと、スレ違いになってしまうけれど、
色さんの文章に付いて言えば、百合子さんと同じく、
美文が目的化するような、窮屈なタイプではなく、
臨機応変でありながら、同時に自分の生理に促する言葉を、
じっくり慎重に吟味し、選ばれるタイプの作家だと思います。
>>43 >>44 色川武大の文章、最高じゃないですか。
すべてが形容詞でありながら、適確で、過不足なく
武田百合子の文章の特質を余すところなく伝えている。
少なくとも僕なら、武田百合子という人を知らなくても
この文章だけ読んで、「へえ、どんな文章なんだろう」って
興味をかきたてられると思いますけどね。
「色川武大」名義のものしか読んでないけど、いい作家だよな。
俺は
>>1ではじめて色川が武田百合子を評価してたのを知ったんだけど、
なるほど、と納得。
それはさておき、
>>1のソースきぼん。
43は馬鹿だな。
>>29 さん
1も同じく「あたたかく深い品格」からです。
中公文庫「犬が星見た」の解説で、
エッセイ集「ばれてもともと」にも収録されてます。
泰淳氏にもふれられてますね。
彼の作家デビューのきっかけになった中公新人賞の選考委員を
泰淳氏がやってたこともあり、私淑されてたみたいです。
他に、「無芸大食大睡眠」収録の「支那の夜」、
「阿佐田哲也 怪しい交遊録」などでも、百合子さんにふれられてます。
このスレの書き込みをあぼーんするくらいなら、
もっと削除すべきところがあるだろうと、ふと思った。
51 :
吾輩は名無しである:02/10/16 17:30
すごーく不思議な夫婦だと思う。
作家の妻という職業に就いたというか。
絶対に干渉されたくない部分を守るために結婚したって感じもする。
ただの天真爛漫な人ではないよね。
52 :
吾輩は名無しである:02/10/16 19:55
>51
どこか決定的に閉じたところのある夫婦
という感じもしました
しかし百合子さんの興味深いところは
内向とかそういうことに終わってないというか
ぶっとんだ天性のエネルギーが
外に向かってるっていうか。
どこかのスレで「半キチ」なんて言われていたけど
唯一無二だと思いました。
53 :
吾輩は名無しである:02/10/16 23:14
百合子さんと泰淳の出会いのきっかけが気になります
泰淳氏は、スケールが大きく射程の長い観念的な思考をする人だし、
百合子さんは、何というか資質がちょっと規格外なところがあるというのか、
閉じてるわけじゃなくて、周りが気になって、付和雷同するようなところがない。
かと言って、決して鈍いわけじゃなくて、むしろ自分のペースと
鋭い生理で、的確に世界を見、感じ捉え、描写する。
それも、意識、作為以前にといった感じで。
だから、周囲の標準的な感覚と不思議なずれが生じてて、
それが天然とか、時には閉じてるとか
(そういう自分を聡明な彼女はよく知っていただろうから)
といった印象を、我々に与えるのでしょうね。
だから、お互いに作為や立ち回りの無い、
ある種の正直、潔癖でいられる(いてしまう)強さによって繋がっていて、
その有り様が、外からは「浮世離れ」というふうにも
映ったりするのだと思います。
あと、やはり戦争の影響は大きい気がしますね。
もともとの生理の強さによる「ずれ」もあったと思うけれど、
大きな観念のようなもには身を任せない、拠り所を求めない
というふうな、きっぱりした感じ(一種のニヒリズムのようなもの)は
あったと思います。
(泰淳氏の「目まいのする散歩」の「鬼姫の散歩」でふれられている、
百合子さんの、国会中継観賞の図は、爆笑でした)
あと、食べ物に対する、ちょっと禍禍しい執着とか。
>>53さん
神保町にあった喫茶店「ランボオ」(現在のタンゴ喫茶「ミロンガ」)が
当時戦後派作家の溜まり場になっていて、
そこでウエイトレスをしていた百合子さんと、出会ったようです。
当時の百合子さんの印象が、「もの喰う女」の
モチーフになってるみたいです。
>>54-55 喫茶店でウェイトレスしていたのですか!
なんでだかわかんないけど、なんか意外だ〜
>>56 そこでモテモテだったらしいのよん。
三島ですら、すごい美女がいる・・・なんてね!
>>57 まじですか!
確かに写真を見ると、百合子さんて美人ですよね。
一応著作は全部読んでいたけど、そういう経緯を知らなかったんで
なんか衝撃があります。
ウェイトレスで作家連中にモテモテだったとは・・・
59 :
吾輩は名無しである:02/10/17 00:41
天真爛漫に見えるし規格外には違いないんだけれど、
本質はすごく冷静で泰淳とは別の意味で悪魔的な
ものを孕んでる人のような気がする。
>>58 美人だけど、ただの美人っていうんじゃなくって、
魅力ある人だったみたいだね。同性にも好かれるタイプでさ。
う〜ん、今風にウェイトレスっ言っちゃあ、聞こえはいいけど、戦後だから(w
とにかく貧乏で苦労したみたい。
服がボロボロでパンパンに間違われたりとか。
1さんもあげてるけど、「もの喰う女」等、参照。
61 :
吾輩は名無しである:02/10/17 00:57
>>60 戦後の人は大変な思いをしたんだろうなあ。
5郎さんの書き込みにもありましたが
百合子さんのたくましさにも関係しているのかな。
富士日記を読むと、百合子さんと泰淳の生活は
当時としては豊かなものなのではないかと思いました。
泰淳自身はお寺の子で、裕福に育っただろうし。
あの日記の生活は、なんだかとても優雅に見えます。
そしておもしろい。
>>59さん
ええ。
何というか、細胞レベルで、元気で強い人という感じしますね。
そして、物凄く目も耳も良い。
花さんも「ニヒルな女」って評するような
感傷に流れない、なんというか、天然の唯物主義者みたいなところがあって、
それがあんまりヴィヴィッドで、ちょっと怖いくらい
というのは、あるかもしれない。
>>29さん
そう! きれいなだけじゃなく、
面白くて、可愛いんですよね。
戦後と、実家の没落による困窮に、本当に苦しんだみたいだけれど。
泰淳作品は、「富士」と「目まい〜」ほか
短編を数編くらいしか読んでいないので、
百合子さんがモデルになってる小説、
他にもあったら、是非ご教示下さい。
なんか、昂奮気味にたくさん書き込んでしまって、失礼しました。
63 :
吾輩は名無しである:02/10/17 03:08
大島弓子の漫画に出てくる女の子って
百合子さんに似た要素を持っているなあと
思うことがあります
>>63さん
なるほど。
大島さんのマンガの女の子たちも、「目が強い」っていう印象があります。
特に初期(「バナナブレッドのプティング」くらいまで)は、
それがはっきり、自分を乱す(自分の一面を含めた)他者の拒絶として
はたらいてた感じ、ありますね。
百合子さんは、比べるともっと線の太い印象だけれど、
根っこには「もなすごく頑固な少女」がいるな、とも感じます。
大島さん(とりわけ「綿の国星」以降の)と共通するのは、
それでいて、凄くやわらかに世界と向き合っているところ。
繊細、頑固なようでいて、何かに目を閉ざして誤魔化すような
窮屈さがなく、静かに受容しているような、
(それが透徹した「怖さ」でもあるんですが)
実は凄く広く色んなものが、しっかり視界に入ってる感じだと、
私は思います。
あとは、猫好きとか。
「日々雑記」の玉の最後、淡々と静かな記述に
却って胸が詰まります。
>>62 武田泰淳の場合、モデルっていってもかなりデフォルメしているのでアレなんですが(w、
今日は『風媒花』の密枝をご紹介しましょう。(エッチっぽい名前だね!)
この作品は泰淳の初の長篇小説で、実験小説なんだけど、
成功作かといえば、所謂成功したものではありません。
朝鮮戦争下の知識人やら労働者やら右翼やらを描いた作品なんだけど、
それまでの泰淳作品に比べて人物造形が弱いという感は否めない。
(まあ、そこにこそ、中国や時代と結び付けない、知識人の苦悩が表現されてもいるんだけど。)
で、そのなかで精彩を放っているのが「密枝」。
まあ、私の感想より、とりあえず読んでみてください。
成功作ではないけど、日本の戦後文学史上重要な一作。
堀田善衛『広場の孤独』と合わせて読むとさらにイイ!
因みに武田泰淳って、百合子さんと付き合う前、堀田と恋敵だったんだよね〜。
なんか狭い世界だな〜。
そういや、堀田が百合子さんにも惚れてたって噂もあったようだけど、
ガセネタですかね?
66 :
吾輩は名無しである:02/10/17 20:01
今日、図書館に行って「百合子さんは何色」を借りてきたんですが
亡くなって一年前後に書かれたもののせいか、書き手側に
百合子さんに対する感傷的な見方が多分に含まれていて、
読んでいて切なくなる部分も多かったです。
令嬢だったことや、泰淳と結婚するまでのあれこれなど
知りたいと思っていたことがイロイロとつまっていました。
豹柄の服を着て、虎を抱いてる百合子さんの写真が、すごくイイ!
>>29さん
堀田氏の話は知りませんでした。
でも、ランボウでは本当に凄くもててたみたいだから。
泰淳氏以前の、劇作家の八木柊一郎氏との話は、
「百合子さんは何色」でもふれられていましたが。
『風媒花』、是非読んでみます。ありがとう。
>>61さん
富士日記によると、やはり、闇市で鍛えられてるせいもあって、
地元の人との交渉力とか、バリバリだったみたいですね。
育ちの良い泰淳氏は、その辺不器用で、百合子さんが一手に引き受けてたみたいです。
紀行や散歩の日記読んでても、人の輪に、自然にすっと入っていっちゃうところ、
凄いです。
>>66さん
村松氏の文章、多少感傷が入って、上滑り気味のところもあるけれど、
愛情のこもった、丹念さとデリカシーのバランスに細心の注意を払われた感じが伝わり、
暖かい気持ちで読めました。
百合子さんの写真、子供の頃から晩年まで、
少女のように鮮やかな生命力が溢れてますね。
68 :
吾輩は名無しである:02/10/18 02:13
村松友ミは、百合子さんが泰淳に
抑圧されていたのだと
暗にほのめかしているような、そんな感じもしました
>>68さん
百合子さんの詩才についての、お話ですね。
これは私見ですが、資質の在り方がバッティングして、彼女の才能が抑圧された、
というよりも、51さんも「作家の妻という職業に就いた」、
という言い方をされてましたが、
自身の、正に規格外で、落としどころの難しい資質、
それ故の不安定や孤独を律する場所を、
彼女は詩作よりも、泰淳氏との生活に求め、
定められたのだな、ということが、はっきり、
きっぱりとした意思として読み取れると思うんです。
村松氏も、彼女の生理と詩才の確かさを強調する意味で、
泰淳氏の才気の放射能を浴びながら、
感性の質や表現の根本において、なんら揺らぎ、
影響を受けることがなかったことを強調されていて、
私もそれには完全に同意なんですが、
同時に、泰淳氏との正に「同行二人」とも言える、深い結びつきが無ければ、
荒みバランスを逸することなく、ヴァイタルで柔らかな生き方を持続し、
深めていくことができただろうか、とも考えるんです。
詩作、創作への執着、というところを人生の中心に定められはしなかったけれど、
それによって守られ、深められた資質もあるようにも思うんですね。
そんな潔い選択の中で、損なわれることなくあたためられた感性と、
そこから生まれた幸福な日々を綴られた文章、
唯一無二の素敵さだ、と、私は思います。
>>69 「富士日記」なんかを読んでいると
百合子さんは泰淳に尽くしたんだな、と感心する反面、
年下で若く、元気な百合子さんを
泰淳がやさしく見守るというか、なだめているようにも感じていました。
なので、百合子さんが堕胎を四回もしていたとか
そういう事実を知った時にはオドロキがありました。
けっこう泰淳もひどいじゃん、っていう・・・
でもそういうものなのかもしれない、とへんに納得したり。
>同時に、泰淳氏との正に「同行二人」とも言える、深い結びつきが無ければ、
>荒みバランスを逸することなく、ヴァイタルで柔らかな生き方を持続し、
>深めていくことができただろうか、とも考えるんです。
この部分、ハゲドウです。
誰だか忘れたけど、「よくぞ泰淳は、この女性を見つけ出した」って
そんな風に書いていたのを見ましたけれど、
この二人が出会って夫婦になったというのは、
ホントにすばらしいめぐり合わせなのように感じます。
>>68さん
>誰だか忘れたけど、「よくぞ泰淳は、この女性を見つけ出した」って
>そんな風に書いていたのを見ましたけれど、
たぶん、埴谷雄高氏ですね。
埴谷さんのもの、ほとんどちゃんと読んだことないんですが、
確か泰淳氏や百合子さんについて書いた随筆をまとめて、一冊になってた気がします。
ちょっと探して読んでみようかな。
ご存知の方いらっしゃったら、ご教示いただけないでしょうか。
>百合子さんが堕胎を四回もしていたとか
>そういう事実を知った時にはオドロキがありました。
当時の生真面目なインテリは、思想、観念に行き詰まると、
(行き詰まらなくとも、物事に過剰に意識的であるため)
ニヒルな心境、世界観からなかなか脱せられず、
子孫を残すという心境になりにくい、というふうになりがちだったみたいですね。
(勿論、そうでありながら、刹那的、退廃的な享楽には
身を任せてはいて、それがひとつの同時代的な空気、スタイルみたいになってて
外から厳しく見れば、無自覚な身勝手、無神経と言えるところも、正直あると思う)
確か、埴谷氏も、何度も奥さんに堕胎させ、
最後までお子さんはつくられなかった。
意味や観念ではなく、事象そのものに触れ、感受し楽しむ力に溢れている
百合子さんのヴィヴィッドな在り方にひかれ、
魅力を感じ、肯定的な感情を重ねることによって、
ちょっと大袈裟に言えば、生きることの別の側面の大切さを、
泰淳氏は身に沁みて体感することができたんじゃないか、
それが、彼を救ってたところ、あるんじゃないか、という気もします。
あまり、泰淳氏の著作を読んでない身で、僭越極まりないですが、、、
「未来の淫女」「続未来の淫女」、読みました。
確かに、泰淳氏の原形が出てる感じ、します。
俯瞰的、観念的でありながら、窮屈に固めた感じのない、
素直なおおらかさ、ソリッドされすぎない繊細さから発している、
大陸的、仏教的なスケールの大きさ。
無常感と業の肯定を両立させる、柔らかい、懐広さというのか。
そういう指向に実と保証を与えていたのが、
百合子さんの生命力と、底が抜けたような率直さなんだな、
という印象を、更に強くしました。
(ここではまだ、百合子さんの資質と、彼の指向、観念が必要とし、
見ようとした背景、因果の結びつけ方が、性急すぎる感じもしたけれど。
それがまた、彼にとってのインパクトの大きさを物語っているような気もしたり、、、)
>>29さん
ラブレターに関しては、私は「合作」という印象でした。
(無論、光子の造形自体がそうなのだけど)
73 :
吾輩は名無しである:02/10/19 16:26
「未来の淫女」読んでみたいのに
いつも全集の12巻だけ貸し出し中だようage
>>73さん
確か、全集には「自作ノオト」しか収録されてなかった気がします。
百合子さんのプライバシーを考えて、初出の単行本以降、
どこにも収録されてないんじゃなかったかな。
>>73 いわくつきの作品なので、全集に収録しなかったのです。
ですから、自分からネタふっといてなんですが、こんなところで話題にしちゃっていいのかなあ、って気もするの。
まあ、いいか。(中途半端はROMに悪いし。)
百合子さんの実家からクレームがついて、武田が自主的に筆を折った為、未完。
(単行本が出てるっていうのは、単行本がでてからクレームがついたってことか?)
詳しいことは専門家じゃないので知りませんが、埴谷雄高が晩年まで惜しがっていましたね。
「未来の淫女」の直前、武田はいくつかの長篇の構想を抱えていて、それが全部挫折。
抱えたテーマが大きすぎたんだけど、それで新しく取り掛かったのが、本作品。
書き出しから判ると思うけど、単純にいえば、武田が全体小説的なものを構想していたわけで、
百合子さんをモデルとした「馬屋光子」なる女性に、それこそ世界のすべてを関連させて捉えようとした、
すごい実験作なのです。
モデル問題さえ生じなければ、武田の初の長篇小説にして代表作になっていた可能性が高く、
はんにゃならずとも悔しがってる人は多いのです。
というわけで、入手方法は古本屋さんで単行本を購入するか、初出誌コピーしる!
ラブレター、ほぼ似たようなのを百合子さん書いてたんじゃないかな〜
って僕は思ってるんだけど……。
あんなのもらっちゃったらもう、惚れない男はいないっす。
光子最高っす。
>74・75
全集には収録されていませんでしたか。
タイトルもすごいけれど、内容もスゴイのですね。
読みたい!しかもラブレターって!
>百合子さんの実家からクレームがついて、武田が自主的に筆を折った為、未完。
確か、弟さんからクレームがあったんでしたっけ。
それで、実際は百合子さんと弟さんは、鈴弁とは血が繋がっていなかったんだけれど、
そこから泰淳がインスピレーションを得た、想像と世界観の構想に水を指さない為に、
彼には事実を黙っておいて欲しい、と、逆に弟さんに頼んだそうです。
78 :
吾輩は名無しである:02/10/21 17:52
百合子さんの場合、実際には血のつながりはないものの
そういう親戚がいるってちょっとカコイイ。なんかロックだ。
本人はイヤなものだろうけど・・・
先日、70年代の「映画芸術」を眺めてたら、百合子さんにポルノ映画観せて
感想を聞くって企画が載ってて、これが最高、面白かった。
いつもの日記や散歩エッセイのように、淡々と物語やシーンをなぞって
話してるだけなので、引用が難しいんだけれど、本当におかしい。
「母親と娘が、よその国からやってきた軍隊にもろとも犯されてしまう話。
犯された次の日も、母娘は同じ部屋で顔をあわせて暮らしているのね。
実に後味悪かったの。女だから、父親と娘の近親相姦の気持は判らないけど、
母と娘の近親相姦というのがあるとするとーこれでしょうね。例えば、
自分だけだったら、武田にいわれたことあるけど、お尻を掻いたりしてね(笑)
えらい目にあっちゃったなあ、誰にも黙っていましょう(笑)と思って、
うちに帰ってくるかもしれない。御馳走食べて、お風呂入って忘れてしまう。
でも娘もろともというの、とても気持悪い」
「この映画のもすごいシーンはあったけれど、主演の女優が立派な肉体だったから、
後味悪くなかった。あの人好きだわ。西洋には、ああいう女の人がいっぱい
いるのでしょうね。生きるも死ぬももう平気、後顧の憂いなしという感じ。
はじめ自分が密告したために両親と弟が殺されたと思い込んでいるから、
自分も死んで当たり前と平然とし、そうでないと判って今度は生きようとして平然、
よかったな。つくり話としても、そう作ってくれていいなあ、と思った。」
「ヒロインのユダヤの女、サジストの女将校に較べると若くして鈍感という感じで、
彼女のジロリの一目で、所長はサジスト女性を殺しちゃう。
ラスト、その所長を殺してから、姿勢正しくゆっくり歩いてゆくでしょう。
あの女はこれから、ますます凄い悪い人になるだろうなあと思ってしまうわね。
これが洋画のいいところ。」
「傲然とし、これからも、何にも動じない。黙っている。黙ってバッドをやる。
そういう後姿に見えた。」
80 :
吾輩は名無しである:02/10/24 19:56
百合子さんの文章、安っぽく感傷に流れないしさっぱりしてるけど、
それが逆に、儚い無常感のようなものを意図せず喚起して
何でもない日々が、儚く、だからかけがえがない
読んでて切ない、愛しいような気持ちになる。
>>37 「あのね、あたしゴールデン街の酒場はいいんだけど、
あのトイレが苦手なのよね」
「建てつけが悪いし、ドアの鍵はかかりにくいし、女の人は苦手でしょうね」
「だからね、あそこへ入ると、まずハンドバッグを口にくわえるのよね。
で、片方の手でドアの鍵をおさえてしゃがんでいるとね、敗れた羽目板の
隙間から星がみえたりするのよ」
「それが、犬が星見たのヒント」
「そうよ、ウフフ」
「百合子さんは何色」P138
82 :
吾輩は名無しである:02/10/25 13:33
「百合子さんは何色」で、百合子さんが女学校時代の友人に宛てた
手紙の文章が載ってますよね。
花さんがトンボを殺して遊んでいる、悪いことだと思っても
その遊び方に感心してしまって、どうにもできない。
「あなたは塾の子に、トンボを殺してはいけないとかそういうことを、
どんな風に教えるの?」とか、そんな感じの何気ない一文に
百合子さんらしさが凝縮されているような気がしました。
「飼主のこういう時の気持を納得させ、してやれるだけのことをしてやったと
安心させてくれる金額は、剥製にしろ火葬にしろ、だいたい五万円前後なのだ。
安すぎもしない高すぎもしない丁度いい按配の金額なんだな。
それに、骨までほめてくれたー。」 日々雑記
なんというか、心に厚着しないでいられる、身軽でいられる、
常に率直で、フェアでいられる、根本的な強さを、凄く感じます。
84 :
吾輩は名無しである:02/10/25 22:45
田口検証本、本日堂々発売!
馬鹿ども買え!!
我々の印税がかかっておるのだ協力しろ!
85 :
吾輩は名無しである:02/10/26 00:30
>>79 それ初めて読みました。
いいですね〜、なんだか思わず笑ってしまう。
>主演の女優が立派な肉体だったから後味悪くなかった。あの人好きだわ。
こういう着眼点も百合子さん独特のものだなーと思います。
食べることだとか肉体だとか、目に見えるものや感じるものに対して
鋭くて、ストレートですよね。
即物的っていう言葉が当てはまるのかわかりませんが、
とても正直で、カッコつけない。はっとさせられます。
>>84の無礼なカキコについてのお詫び。
田口スレの住人ですが、ランディ周辺の汚猿が、盗作監視スレの
評判を落とすためのなりきりカキコを、
あちこちのスレで乱発しています。
こちらのスレッドを無礼なカキコを汚して申しわけありません。
どうかお許し下さい。m(_ _)m
>>85さん
元「映芸」編集長の小川徹さんは、「日々雑記」などにもよく登場されてますね。
では、引用もう少し。
「あの当時は一番初め、どうして1日をくらしていいか判らなかった。
それで朝湯を思いついたの。朝、トロオンと目が覚めると、すぐお風呂に
入っちゃう。タワシで一生懸命洗ってでてくる。すぐまたトロオンと
暗い気持になる。つまらなくなる。また入る。そうやってたらお風呂中毒に
なっちゃった。それぐらいじゃ我慢できない。それで今度はサウナに出かけたの。
ある方が、お香典代わりに「娘と一緒にサウナ付きプールで、パーッと泳いで
くるのもいいんじゃないかな」っておごってくれたので、それがいい気分
だったので、それが病みつきね。よく知らないから電話帳で調べてかけてみると、
たいてい男性用しかないのね。渋谷に会館と名の付くところ、東京會舘と
同じだろうと思ってたら、そうじゃないのね。圧倒されるような女の人ばっかり。
娘と行ったんだけど、あたし自分のお風呂道具抱えて行かないと気がすまないの。
向こうにありますよと言われても。ビニールの風呂敷包かかえて山の手線に乗ってく。
安いとこ、千円以下の。イヤだもの。三千円なんてとこは。安いサウナに
きてるひとって、モーレツなのね。若いのにギックリ腰になったり。一回五百円
だとすれば、番台出ちゃったら損だから、脱衣場で丸裸でタバコ吸ってね、
それから「オバサーン、ビール一本買ってきてえ」という。それをグーッと
大瓶一本飲んで、またサウナに入る。昨夜はのみすぎたなあ、なんて丸裸でいって。
ここでは誰も、あたしが亭主なくしたってことなんか知りゃしない。
皆金がほしいとかここが痛いとかイヤなこと(笑) てんで自分勝手に喋ったり
態度してるの。百度で熱せられて、その人たちになんとなく慰められて出てきて、
ガンバラなくっちゃと少し思って帰ってくるわけ。
武田が死んで間もなく、南米でバスが河に転落して、乗っていた人たち36にんだか、
あっという間にピラニアに食われて死んだという新聞記事見たの。武田が死んでから、
はじめて笑ったわ。そのとき。」
「例の映画館の事件をよんでね、ああオバさんなんだから、痴漢にあっても
ニコヤカにしなくちゃと思った。(笑)刺されて血なんかタラタラ出たら
イヤだもの。新聞に、名前や年まで出ちゃって。若い人なら怒ってもいいけど、
オバサンが「バカ!」なんて、痴漢に言っちゃいけないのね。
(笑)これからは練習しとかなくちゃ。
あたしと同年の友達が、映画館で、サンドイッチか肉饅食べながら見ていたら、
両側に痴漢が座ったの。こっちがこっちの手、向こうが向こうの手という風に
ひっぱって、肉饅がうまく食べられなかった。暗いから痴漢はよく判らなかった。
『あたし××才ですよ』と言ってもね。「そうですか」って。すぐやめては、
失礼だから痴漢も続けてやらなきゃならないのかしら。」
「この間葬式の手伝いをしました。そこに有名な香典詐欺がやってきた。
新聞に出るようなお葬式口は調べておいてやってくるらしいの。
方々に現れるから、出版社の葬儀係の人は顔を知ってるのね。男と女と
両方来ますよって言われてみんなが気を付けていたんです。女の方のが
やってきたと知らせがあった。はじめてだからつくづくとみました。
それが七十前後のおばあさん。喪服を着てね、髪を染めてネットを
かぶっているの、ほつれちゃ大変でしょ。方々へ行かなくちゃならないから。
こっちにはお葬式係のベテランがいるから警戒する。おばあさんは何も
取れなかった。でもおばあさん、ずうっと待ってましたね。機会をねらって
あくまでもきちんと佇んで待ってるの。焼き場へお棺が出るときも
ちゃんと数珠持って、拝んでました。堂々と。遺族の人などに話しかけて、
遺族の若いお嬢さんに『この度はお気の毒で』『ありがとうございます』
と話したりしてるの。取れなかったけど最後までガンバッてた。
そのおばあさんみてね、あたしもガンバラなくちゃと。くわしくいえば
そこで髪をそめるか、それからあんまり色が黒かったり、くたびれ果てた
姿でいると怪しまれるから色くらい白くしておかなくちゃとかね、
研究してみました。以前、大詐欺のおばあさんが、捕まったあと
老人ホームに入ったけれど、まるで平気でガンバッてるという話ありましたね。
あの人は色が白くてかわいいおばあさんだったと。色が白くて上品で
かわいくないと、おばあさんになって詐欺もできない。
やっぱり努力してるのね、その人も。」
91 :
吾輩は名無しである:02/10/27 23:03
>>87-90 うーん!
結婚詐欺のオバアサンに対しての見方がオモロイ。
腹を立てるわけでもなく、むしろ感心しているとは・・・!
92 :
吾輩は名無しである:02/10/30 22:29
age
引用ばかりで芸がないけれど、もう一つ未収録のものを。
百合子さんの文章って、それ以上言葉を重ねる必要がないようなところがあるから、
こういう時、ちょっと困ってしまいますね、、、
「山水鳥話」
三日ばかり泊りにきていた娘が、午後帰る。送りがてら山を下りた。
河口湖の町の八百屋で、葡萄の籠を土産に買い、娘は新宿行きの電車に乗った。
改札口から見える富士山は、赤と緑と濃紺のまだらの肌をした全身をすっかり現し、
西の空に浮かんだ円い形の輝く白雲が一つ、磁力に吸い寄せられるように
形を崩しながら近づいてゆく。
ガランとした待合室で、医療器具などの外交販売員らしい若い男に、
老人がいい機嫌の大声で話している。今年は冬に二百年経つ杉が枯れたぐれえの寒さがきた。
雪で枯れたじゃない、凍って枯れた。一メートルも地下が凍ったで根が枯れたわけだ。
こんなに寒けりゃ天然自然のものは枯れるで、年寄りも死ぬかと思えば、人間は暖かく着たり、
こたつに入ったりで、今年のような冬は却って気をつけるで死ななかった。
老人ホームでも死なない。葬儀屋が祭壇貸す回数がいつもより少なかった。
それにまた、湖上祭の花火の日はよく晴れて、こういう日にある夕立もなかった。
いかに晴れても夕立があったじゃ、空気に湿りがきて仕掛け花火はうまくいかない。
わしら年寄りは有料便所の係よ。ずらーっと便所に列が並んで、十円とっちゃあさせて
くたびれたけんど、うんと面白かったなあ。雨の少ない夏はぶどうもうんと甘みが出る。
そんなこんなで、めったにないいい年だった、、、
晩ごはんを食べ終えてテレビを見ていたら、ふわーっと停電になった。
二、三度力なく灯っては消え、それからずっとつかなかった。蝋燭をたてて
便所に行くと、暗闇から何匹ものこおろぎが、いちどきに首すじやもんぺに
跳びついてきた。コンクリートの三和土は寒いのだ。蝿も髪の毛にきてたかる。
高窓の外に濃い稲光が明滅するうちに、石垣とバラスを敷いた径と屋根のトタンに
雨の音が走って、どっと降りこめてきた。ふとんに入ってじっとしている。
海の底に横倒しになっているようだ。表の雨音とは別に、ときどきカサリカサリと
紙がめくれるような音が、高い天井の梁の奥あたりでする。夏のはじめに
山小屋をあけたとき、姿を見せないのでいなくなったと思っていたが、蝙蝠が二匹、
やっぱりいるらしい。眠るまでに地震が一回あった。
眼がさめると、ケクケクと変な鳴き方をして、鳥が屋根の上の空を渡ってゆく。
そのあと遠くから賑やかな行進曲が聞えてきた。うちの方へやってくるらしい。
楽隊がこんな早くに?こんな山ん中に?わくわくして起きた。昨夜、停電のさいに
消し忘れたテレビが、早朝のカラー調整を流しているのだった。
日が射しはじめてから、向かいの沢の会社寮へ電話を借りに行った。
「今日は幾日ですか。ここに一人でいると幾日だかわからなくなる」
電話をかけ終わるのを待って、ぼんやりと窓の外を眺めながら管理人のAさんは言う。
寮は十月の半ばで閉じて、山を下りるそうだ。もうストーブを焚いている。
「今年の夏もえらい人がいくたりも死んだねえ」「えらい人って?」
「えらい人って有名な人。たしか、どんどん死んだような気がするよ」
Aさんは沢を上って上の道まで一緒に出てきた。井戸の底の水のような
黒ずんだ青空に、ごっと底鳴りして風が吹きわたる。夏も秋も朝でも晩でも、
この道から眺める富士山が一等好きだ。富士山の胸板にとりついて、という感じがある。
うっとりする。
「ゆんべ、夜中にこの道を車が通ったな。ほら、ここにタイヤの跡がついてる。
この一帯はお宅とうちしかいないのに、嵐の夜なかに、ここを通ってどこへ行ったかね」
七十半ばでも眼のいいAさんは、すぐさま異変を見つけ、探偵のように道を睨んでいたが、
ごはんでも食べるか、と我に返ったごとく独り言を言うと、沢を下りていった。
96 :
吾輩は名無しである:02/11/01 01:35
>>93-95 描写がすごくいいですね、しみじみと。
>改札口から見える富士山は、赤と緑と濃紺のまだらの肌
富士山について、こんな表現する人ってなかなかいないと思います。
赤と緑と濃紺。
これは泰淳が亡くなってからの文章でしょうか?
百合子さんの文って「富士日記」の頃と、それ以降のものでは
雰囲気が違うような気がします。泰淳がいなくなってからの文章は
どこかシンミリしたところがある。
世の中にまいってる部分も出てきたりして。
>「えらい人って有名な人。たしか、どんどん死んだような気がするよ」
こういう書き方も面白い。簡単な文なのに、すごく印象的。
97 :
吾輩は名無しである:02/11/01 01:36
>>79から引用してくださった文章は、何年何月号の「映画芸術」に載っているのですか?
(1977年以降だとは思いますが)
>>93からの「山水鳥話」は何に掲載されたのですか?
教えてください。
>>97さん
「映芸」は、77年8月号です。
「山水鳥話」は、記事の保存が悪くって、どこかわからないんだけれど、
「遊覧日記」と「日々雑記」の間くらいの時期に、新聞に掲載されたものみたいです。
>>96さん
>「富士日記」の頃と、それ以降のものでは
>雰囲気が違うような気がします。泰淳がいなくなってからの文章は
>どこかシンミリしたところがある。
確かに。「富士日記」と「遊覧日記」や「日々雑記」を比べると、
それは感じますね。静かで、うららかな文章。
99 :
吾輩は名無しである:02/11/01 12:27
カーキ
>>5郎さん
わざわざありがとうございます。
ずいぶん前の「映画芸術」に文章があるのは知っていましたが、
掲載号がわかりませんでした。
「山水鳥話」は全く知りませんでした。
掲載された新聞は、朝日や読売、毎日、東京のような全国紙でしょうか?
もし覚えていたら、(発表の季節なども)教えてください。
>>97さん
申し訳ありませんが、たぶん何かの古本にたまたま挟まっていたか、
誰かに貰ったかしたものだったと思うので、ちょっとわからないですね。
こちらこそ、単行本未掲載の文章ご存知でしたら、是非ご教示
よろしくお願いします。
102 :
吾輩は名無しである:02/11/08 17:17
ダヴィンチ12月号で、山崎努が愛読書に「富士日記」あげてたよ。
103 :
吾輩は名無しである:02/11/09 15:24
実はファンの多い百合子さん
104 :
吾輩は名無しである:02/11/09 15:59
この人の印税って、やっぱ花さんが受け取るようになってんのかな。
105 :
吾輩は名無しである:02/11/09 16:27
106 :
吾輩は名無しである:02/11/09 16:38
花さんって写真だけで食べていけてるのかしら。
余計なお世話だが…
107 :
吾輩は名無しである:02/11/14 11:18
泰淳age
108 :
吾輩は名無しである:02/11/14 11:23
69 :吾輩は名無しである :02/11/14 10:39
余計なことかもしれないけど、5郎さん、そろそろトリップ付けたほうがいいかも。
ここが前スレのようにならないためにもね。
75 :美香 ◆FE5qBZxQnw :02/11/14 10:45
>>70 名前欄に「5郎#(適当な文字を入力)」です。
109 :
5郎 ◆E431VLzux6 :02/11/14 11:24
てすと
110 :
吾輩は名無しである:02/11/14 13:35
>>62さま
いま、このスレを発見したので、遅くなりました。
『花と花輪』がモデル小説です。
百合子さんも含めて鈴木家のことがモデルになってます。
ただし、全集には泰淳さんの意向で収録されていません。
鈴木家関係者に迷惑をかけるかもしれないという配慮のようです。
後は、「もの喰う女」という佳作がありますよね。
>>109さん
ありがとうございます。
「花と花輪」、早速探して読んでみます。
出版が昭和36年だから、泰淳氏、「未来の淫女」の後も、
このテーマずっと温め続けてたみたいですね。
泰淳スレまで立ててしまいましたが、そちらは本当に読みはじめて日が浅いので、
これからも是非、いろいろ教えて下さい。
よろしくお願いします。
>>106さん
最近花さんの写真、また女性誌などでもよく見かけるようになりましたね。
112 :
吾輩は名無しである:02/11/14 21:43
218 :吾輩は名無しである :2001/04/14(土) 03:13
泰淳の畢竟の作品は武田百合子である。
しかし、戯曲としては ひかりごけ がある。
極限状況の人間生存の根本問題の表現形態としては大岡昇平の野火と対比できる。
昇平の根本には近代的知性への信頼があったが、泰淳は人間の原罪を深淵の暗黒ととらえた。
泰淳の沈みかけた精神の復活願望は百合子夫人との出会いにより物象化された。
泰淳と百合子が二人で食べたトンカツの味は人間復活の味であった。
安吾の桜は戦後文学的要素の強い作品でもあるか゛、今から見ても現代的な女性像を完成させている。
安吾にとって女性とは愛おしくも永遠に対立する猥雑な存在でもあった。
そして、読者というものは作家の女性像を世界像として誤読する癖がある。
113 :
吾輩は名無しである:02/11/14 22:55
文学界のベストカップルage
>>112 あれ、こちらにも。
ご苦労様です。
いい文章ですね。
117 :
吾輩は名無しである:02/11/17 18:50
1の偽善にうんざり
118 :
吾輩は名無しである:02/11/17 22:01
5郎さんのおかげで、作品集に収録されてない
百合子さんの文章が読めた。
119 :
吾輩は名無しである:02/11/17 22:15
このスレタイって、めちゃくちゃエロいよね。
120 :
吾輩は名無しである:02/11/17 22:42
だって百合子さんそのものがエロいもの。
121 :
吾輩は名無しである:02/11/17 23:05
人間はみんなエロいんだよ。
>>118の言うとおりなんだから、もう荒らすな。
122 :
吾輩は名無しである:02/11/17 23:30
泰淳のえがく百合子さんは官能的。
たまには、怒ってみようかな、、、
「五月二十八日 晴のちうすぐもり
(中略)
昨夜、十一時過ぎ、講演をききに行ったという男(B社の田中だがね、と横柄に
名乗ったがウソらしい)、酔っているらしい声で、ネチネチと、武田泰淳の人格に付いて
電話をかけてきた。講演から戻ってきて、ふとんにもぐりこんで眠りこけている主人を
起こすなんて、できない。押問答に、その男は仕方なく私に逐一、武田泰淳の人格に対する
自分のフンマンを述べた。フンマンを伺ってから、私はカーテンを閉め、窓もドアも閉め、
二階の仕事部屋のドアも閉まっているかどうかを覗いてから、充分にどなり返した。
「タケダという男も実にバカモンでキチガイとしか思えないが、女房もそれに輪をかけた
キチガイだ。亭主のバカを注意してやったんだから、ありがとうございます。以後は
気を付けるように私からも申しておきます。申訳ございませんとでも言うかと思ったが、
女房も亭主に劣らぬバカモンだ。喰ってかかるとは呆れた。小説家なんぞというもんは、
世間じゃえらそうに通っているが、うちんなかは最低だね。非常識だね。呆れた夫婦だ。
俺はもう何にもいわないよ。ヒステリーのバカモン」といって男は電話をきった。
むらむらと腹のたつこと。今朝は早起きしての運転だから、さっぱりしようと思ったが、
ときどき男の声を思いだして、むらむらとする。実にソンなことだ。怒るとくたびれるからソンだ。」
(富士日記)
>>119 120さん
ヤラシイって言う人がヤラシイんだ。(小学生風ツッコミ)
>>122さん
同意。この辺、泰淳スレでもおいおい掘り下げてみたいですが、百合子さん自身、
存在がバイタルだけど隙があって、エッチってところ
(心に垣根を作らない、純なビッチ感とでもいうのか、、、)は、魅力です。
>>115さん
以前もそういう書き込みがあって、何だろうって思ってたんだけど、
そういうコテハンの方がいらっしゃったんですね。残念ながら、俺は別人です。
>>116さん
わざわざありがとう。百合子さんのベスト、ワースト見てみたいですね。
探すの大変そうだけれど、気長に一期一会を待ってみます。
125 :
吾輩は名無しである:02/11/20 00:45
ミロンガに行ってみたいですage
>>125さん
シナモントーストがおすすめです。
土日は閉めるのはやいから、お早めに。
>>126 125じゃありませんが、ありがとう。
行ってみます。
>>128 ありがとう!
感謝、感謝!!
5郎さん、がんばろーね!
130 :
吾輩は名無しである:02/11/21 13:58
結構盛り上がってますね。
5郎さん、がんばろーね!
62 :美香 ◆FE5qBZxQnw :02/11/14 00:34
>>61 5郎さん
40台後半とプロファイリングしていました(汗
67 :吾輩は名無しである :02/11/14 10:29
>>62 え? それで間違ってないと思いますよ、
自分では違うとおっしゃっているようですけど(笑)<5郎さん
しかも、女性だったりする・・・
132 :
吾輩は名無しである:02/11/21 19:45
ミロンガ行こうっと!
>>116さん
散歩がてら神保町ぶらついて、映芸発見してきました。
百合子さんが選んだのは、ペキンパーの「戦争のはらわた」
(ジェームス コバーン亡くなっちゃいましたね)
と、あとは映芸の特集で見せられた「ウォーホールの『BAD』」「スキャンダル」
ワーストもその中の一本「ゲシュタポ卍収容所」でした。
選考理由には触れてませんでした。
ペキンパーっていうのが、一見遠いようでいて、実は即物的な感性の百合子さんらしいな、と思った。
5郎さん。
百合子さん縁の場所をぶらぶらしてみたいんですが、
5郎さんとしてはどこがお薦めですか?
ミロンガは近いうちに行ってみようと思ってます。
それから、目黒の長泉院にも行ったことがあります。
(もちろん、二人の御墓も見てきました。)
その他でどこかお薦めがあったら教えてください。
5郎さん、大丈夫?
元気だしてね。
>>134さん
お返事遅れてごめんなさい。
俺も行きましたよ、長泉院。
お寺の方に、「泰淳読んでるなんて、若い方にはめずらしいですね」
なんて、言われました。
ゆかりの場所ですか。
「遊覧日記」や「日々雑記」片手に、浅草や青山あたりを歩いてみるとか。
彼女の描写の印象が鮮明で、どうしても本の方に引っ張られてしまうけれど、、、
俺は「日々雑記」に出てくる谷中の貝屋に海苔を買いに行って、
わさび醤油で食べました。
ねぎやや炒り卵はいれなかったけど。
>>135(ごはんさん)
ありがとう。大丈夫ですよ。
ていうか、ちょっと反応大袈裟だったかな?
ご心配おかけして申し訳ないです。
>>136 よかった!!
実は心配だったので、今週毎日来てました。
泰淳スレの方、僕自身いろいろ考えるところがあってレスつけなかったんですが、
5郎さんにはすごく悪いことしたかなって思ってたんです。ごめんなさい。
(しかしあそこはなんか俺には鬼門みたいなので、暫く近づかないつもりです。)
とにかく、すごくほっとしました。
因みに127=129=134も俺です。メール欄にこそっと入れておいたんだけど(ワラ
お寺の中にも入ったんですね、いいなぁ。
>「遊覧日記」や「日々雑記」片手に、浅草や青山あたりを歩いてみるとか。
是非そのうち行ってみます。春がいいかな?
その前にミロンガでビールだ!!
>>133 5郎さん、「映画芸術」1978年2月号、早速発見されたんですね。
百合子さんのベスト・ワーストを紹介してくださってありがとうございます。
どの映画も知らないのが残念です…
139 :
吾輩は名無しである:02/12/01 21:46
12月になったので、富士日記の12月のところを読んでます。
140 :
吾輩は名無しである:02/12/02 01:26
5郎を待ちながらw
『話の特集』80年頃のBNで、百合子さんの連載『テレビ日記』を発見。
また、ぼちぼち引用書き込んだりしてみます。
あと、金井久美子、美恵子姉妹による座談連載にも登場してたんだけど、、、
金井姉妹、百合子さんを、興味が内に向いて観念的になってるインテリを
あてこする杖にするために使ってるようなところは、ちょっとなあ、、、
図式的な上にでしゃばりすぎで、ホスト(ホステス)としてはちょっといただけなかったなあ。
率直な「本音」だからこそ、人品が露になるってことを、痛感しました。
143 :
吾輩は名無しである:02/12/15 21:06
BNって何ですか?
5郎さんが復帰してくれてうれしいです。
百合子は赤色に決まってんだろ。
145 :
吾輩は名無しである:02/12/15 23:01
>>142 なんだか百合子さんは、金井美恵子とは
対極の人のような気もします。興味深いです。
146 :
吾輩は名無しである:02/12/16 23:36
>>142 5郎さんへ
もしよければ、最終回であろう『話の特集』1980年12月号の
百合子さんの連載「テレビ日記」最終回と
「編集前記」(百合子さんの消息が出ていたら)を
引用してくださいませんか?
編集前記
武田百合子 エッセイスト。住まいが赤坂という場所がら、レストラン等で
テレビ関係者たちに遭遇することが多い。彼らの話を聞くとはなしに聞くうちに
テレビのつまらなさの原因がよく分る。
テレビ日記
×月×日
暑中見舞の葉書くる。
「、、、梅雨が戻った如きの気配の雨が、今日も都心の舗道に降り続いております。
海山の人出は少なく、、、」
こんなこと知ってらい。赤坂に住んでいる人が、赤坂に住んでいる私にくれたのである。
夜のテレビニュース。見るともなく聞くともなくいる。終わりごろ「前衛演劇の
戯曲作家であり、小説や評論の分野にも活躍、、、」と、アナウンサーがいいかけた。
唐十郎さんか寺山修司さんが亡くなられた、と思って画面を見つめたら、寺山修司さんの顔が
大きく出た。近所のアパートだか、家だかを見ていて捕まり、罰金として八千円を
支払ったのだそうだ。寺山さんは、以前にも、その辺りを覗いていたことがあるのだ、
というようなことも、アナウンサーはいった。
寺山さんは何を見ていたのだろう。よっぽど見たいものが、その辺にはあるのだ。
電話をかけて密かに教えてもらいたい。私も見たい。(しかし、知り合いでないから
電話出来ないで、そう思っているだけだ)
148 :
パッツィー:02/12/17 12:14
てれびは原作をちがったかんてんからみれるからすきだよ
×月×日
富士の山小屋で。
向かいの沢にある運送会社の寮に、今日は人が沢山きている。三時ごろになると、
庭に樹から樹へとコードをわたし、赤や青の電球をぶら下げて、野外パーティーが
はじまる。カラオケ大会。津軽海峡冬景色、銀座の恋の物語、ゆう子、など。
なかでも「花街の母」は、皆が気に入っている様子だった。とび抜けて上手な男が
一人いて、セリフ入りで歌う。「この姥桜でも、出来ることならこの花街に、
もう少し居させて下さい」と、女形みたいな声でいい終わると、ヒェーッと声があがって
拍手が鳴った。三度も四度も歌った。草むしりしながら、私はこのセリフを覚えて
しまったのだ。声をいくら張っても、空や林の中に吸い取られてしまうので、
悪酔いしてしまったらしく、五時ごろには声がぴたりとやんだ。家に入って
出てこなくなった。
去年までは、NHKと民放一局がうつっていた気がする。テレビの機械が悪くなったのか、
山の中のせいか、今年はNHKがうつらず、民放が二局うつる、一局は色がつかない。
新聞をとらないから、いつ、何をやるのやら見当がつかない。
山本陽子がネグリジェ姿で出てきて、カーテンを開けた、塀と庭に陽が射している、
山本陽子がのびをした、ーもう一つの局に変える。「桃太郎侍」だった。「桃太郎侍」だけは
見たくない、と思っているのだが、見ることにする。
わる商人と、わる奉行が出てくる。わる商人は五百両包んだ紫のふくさを、
わる奉行に差し上げる。池のほとりまで帰ってくると、わる商人は、わる奉行の手先に
殺される。そこへしじみ売りがきて、落ちていた財布を拾う。長屋の衆に奢って、
どんちゃん騒ぎをする。女房が財布を隠す。落語の芝浜の革財布のすじとなる。
ついこの間、こんな話の時代劇見たような気がする。そうだ。「雪姫隠密道中記」だ。
そじみ売りではなく大工だった。そのとき大工になった役者は、今日はしじみ売りの
親方になって出演している。
「小判て、いいなあ。お札より重みがあって。いいなあ」一緒に見ていた娘のつれあいが
言った。時代劇テレビを見たあと、この人は、たいてい、こういうのである。
それから「南米大陸の昆虫」を見た。蟻、ツノゼミ、ナナフシ、ハムシ、蜂、
蝶などが出てくる。感動した。どんな虫も、ちっとも古臭くない。未来の生物のようである。
そのあと「西部警察」をやった。夜が更けて、地元のCMが多くなってくる。
お座敷トルコ「千姫」というのがうつった。腰から上が十二単衣、腰から下がビキニ風パンツの
女性が二人、正座して手をついておじぎをした。
そのあと「あすの番組」というのをやった。もう今日の番組はすっかりやってしまいましたよ、
と知らせてくれているのである。テレビを消す。灰色の四角い硝子ま真ん中に、
しゅっと脳味噌がしぼむような音を立てて、水銀の玉みたいな光が吸い込まれる。
×月×日
足を痛めて、ほねつぎに通っている。ここの待合室には、宇能鴻一郎の本が沢山
(ほかの本はない)置いてある。手や足にギブスをして白い布を巻いた男たちや、
どこが悪いのか青黄色い顔で身動きしない老人が読んでいる。手を吊った子供も
読んでいる。奥の茶の間から声が聞える。「かあちゃんなんか、子供の頃は川や野原で
遊んだ、いーい思い出があるんだ。お前なんざ、テレビばっかり見て、ごろごろしててさ。
いーい思い出なんか出来るもんか」母親が子供をいい負かそうとしている。
「いーいテレビ番組見たっつう思い出が出来るもん」のろのろした男の子の声。
東京オリンピック。浅間山荘。梅川銀行ギャング。
三島由紀夫さんが鉢巻をして軍服のようなのを着て、自衛隊の建物の高いところから
演説する姿も、テレビで見た。閉め切った硝子窓の外は青い空で、ヘリコプターが
解体しそうな音をあげて近づいたり、遠ざかったりしていた。原稿の締め切り日だった。
仕事をやめて二階から下りてきた夫と、テレビの前に畏まって坐って、三島さんの
顔を見ていた。夫は鼻をかんで、丸めたその紙で眼鏡を押し上げ、眼もこすった。
その紙を握っていて、また鼻をかんで眼をこすった。
「木乃伊の恋」(テレビドラマ。たしかこんな題だったと思う。)は、グアム島から横井さんが
帰ってきたころ見た。
土の中で鐘を叩く音がする。掘ってみると、半ば木乃伊のようになった坊様が鐘を叩いていた。
即身仏の貴いお方であろうと、手厚く介抱するうちに生き返る。下へも置かぬもてなしに、
もともと丈夫なたちであったのか、坊様は人並み外れた大食漢となり、生臭ものや酒まで所望し、
女にも懸想する。まわりの人たちはうんざりしてくる、ー上田秋成の「二世の縁」を基にした話。
その木乃伊に扮した役者が良かった。廊下を向こうから歩いてくる格好は、いまも覚えている。
舞踏みたいだった。名優というのか、奇優というのか、はじめて見た。その役者は大和屋竺という
名前だった。私は、ヤマト・ヤジクさんと読むのかな、と思っていた。ヤマトヤ・アツシさんといって、
脚本を書く人だ、とあとになってわかった。
大和屋竺を一目で気に入るとは。
百合子さん、ドラゴンセンスもバッチリだ!
>>146さん
「テレビ日記」ご存知だったんですね。
他には消息らしい記述は、前後の号にもないみたいみたいですが、
どういったことをお調べなんでしょう?
>>143さん
BN→バックナンバーです。
>>145さん
これは確か、単行本化してたかな。引用していいものかどうか、微妙だなあ。
153 :
吾輩は名無しである:02/12/17 23:06
>>152 引用してほしいです。印象に残った部分的だけでも是非。
154 :
吾輩は名無しである:02/12/19 00:39
バックナンバーのことだったんですね。
丁寧にありがとうございます。
5郎さんへ
連載は1年間の予定、という紹介を見たことがあり、
今回の5郎さんの好意に乗じて、最終回を読みたいと思ったのです。
突然のリクエスト、すみませんでした。