**** 井上靖 ****

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370吾輩は名無しである
井上靖『崖』 原稿守って40年 
本紙連載 当時のバイト男性
芥川賞受賞作「闘牛」や「氷壁」「敦煌(とんこう)」などの作品で知られる
作家・井上靖(一九〇七−九一)が、六一年から六二年にかけて東京新聞に
連載した長編小説「崖(がけ)」の原稿を保管していた男性が十六日、原稿を
横浜市中区山手町の県立神奈川近代文学館に寄贈した。原稿はほぼそろって
おり、枚数は約二千枚に及ぶ。同館は「これだけの長編で原稿がまとまって
見つかるのは珍しい。状態も良く、推敲(すいこう)の過程がうかがわれ、
研究上の価値も高い」としている。
■横浜の文学館に寄贈 『ほっとした』
寄贈したのは、埼玉県狭山市水野の派遣社員矢満田(やまんた)智康さん
(66)。小説「崖」は、がけから落ちて記憶を失った男の苦悩などが描かれた
作品で、六一年一月三十日から翌六二年七月八日まで五百十七回にわたり
東京新聞夕刊に連載された。矢満田さんは当時、東京新聞校閲部でアルバイトを
していた。掲載が済んだ井上の原稿が、他の原稿と一緒に処分されると知り
「大家の原稿が処分されるのは惜しい」と、許可を得て原稿を集めた。
矢満田さんは約四十年間、長野県四賀村にある実家の物置に原稿を保管。
寄贈先を探していたところ、同館で「井上靖展」が開かれていることを知り、
同展最終日の十六日に寄贈した。同館の建設準備懇談会メンバーには、生前の
井上も参加しており、没後、遺族から原稿や取材ノートなど約一万四千点の
資料が贈られ「井上靖文庫」として保存している。井上の長女浦城いくよさんは、
井上が好んだというブルーブラックのインクを使った万年筆で書かれた原稿を
見て「間違いなく父の原稿。四十年間も原稿を大切に守り通してくださったこと
が何よりありがたい」と感激した様子。矢満田さんは「よかった。ほっとして
います」と笑顔で話した。寄贈された原稿は、同館が来年三月に開催予定の
常設展に、特別コーナーを設けてお披露目するという。(東京新聞)