340 :
たま:
村井弦斎「食道楽の献立」 豆腐料理
若いときから毎日豆腐ばかりで生活しているという人が、私の知っている者にも二、三人あります。
そのうちの一人は私の親戚のもとにいた馬丁ですが、三食ともなま豆腐に少しの醤油をつけて食べるばかりです。
そのほか、おりおり、なまの野菜を食べますが、それで顔の色も非常に鮮やかですし、
馬とともに走るときは普通食をしている馬丁よりも速いくらいです。
そのため馬丁の仲間ではつねに不思議がって、この男は豆腐ばかり食べていて、
どうしてこんなに丈夫だろうとうわさしています。
ある婦人は若いときから豆腐と豆腐殻、すなわち卯の花のほか何も食べないで、
五十歳の今日になるまで生活してきたといいます。これもいっこう病気をしません。
わが国でもむかしから大豆の効能は人にしられておりますが、大豆ばかり食べていた人も往々にあったものです。
私の知ったところでも、富士山のふもとに木食していた存龍上人は毎日なま大豆を食べて、
おりおり野生の草を噛んで生活をしておられたそうです。
さきごろの「報知新聞」にも「十四年間米をくわぬ大森老人」と題して不思議な老人のことが
出ておりました。その記事を抄録しますと、(つづく)