やめられない♪とまらない♪かるびぃぃぃい かっぱ

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41馬頭琴
俺は朝起きて、ゴソゴソとパンをまさぐる。
すぐ横にあるはずだ。レーズンパン、袋らしきものが手にあたり、ひとつ取る。
パンが口の中にまとわりつく。嫌な朝、毎朝毎朝、いつもいつも。レーズンパンの嫌な食後感が俺を苛める。
猫が笑っていた。窓辺から逆行で俺をにらんでいる。
葉がさわさわと猫をなでる。

ついに目覚めた俺は、起き上がった俺は、なんとなく顔を洗う。
少しサッパリしてスーツを着た。
パリッと、ピシっとではなく、なんとなく着た。
このままなんとなく寝癖をととのえて、なんとなく家を出て、なんとなく駅につく。
なんとなくお伊勢さんに着いても良さそうだが、俺は決して地元の駅以外には着かない。
俺には行くべきところがあるからだ。
しかし俺は行きたくなかった。
行きたくないのに行くべきところがあるのだ。
ハッキリとした目的とハッキリしない目的意識。
朝の寝ぼけのせいだと、寝るまで思っている。

今日も満員電車に乗る。
ここは少し知性を見せるところだ。
俺はドアの閉まる瞬間を狙うのだ。
ドアに寄りかかって満員電車をやり過ごすために。
誰よりも遅く入り、誰よりも早く脱出する。
誰もがそう思えば叶わない。
俺だけが、誰よりも強くそう思うから、俺は今日もドアに寄りかかることができるのだ。
42馬頭琴:2007/09/26(水) 00:19:22 ID:???
なんだかんだと俺は真面目で、朝も一番に会社につくことが多い。
今日も一番についた。誰もいないのが少し嬉しい。
俺の最初の仕事は、煙草を吸うことだ。
会社の中は禁煙だから、俺は会社の入り口にある喫煙所にわざわざ出向いて煙草を吸うのだ。
一息。一服。
カラリとした空気にモワリとしたものを混ぜてやった。

目の前を、蝉の抜け殻がサカサカと駆けていった。
43馬頭琴:2007/09/26(水) 00:20:14 ID:???





俺は会社を辞めてやった。
イラついていたんだ、課長の目つきに。椅子の形に。朝の猫に。小さな優越感に。
家について、スーツを脱ぎ捨てた。
床にくしゃくしゃに置いて、俺はTシャツにジーパン。すぐさま家を飛び出した。
近所のコンビニ、並ぶ缶ビール。
いつでも好きな酒が飲める、この街はいい街だ。
缶ビール2本買って、ツマミは、少し腹が空いていたから肉まんを二個買った。
コンビニを出て、すぐに走り出した。家の前にある河原、誰も立ち止まらない定番の散歩コース。
俺はそこに立ち止まってやるのさ。そしてビールを飲んで不憫な目で見られてしまいたい。
そんな自棄な気持ちをためこんだまま走った。
走って走って、そして河原につく前に力尽きた。
ぜぇぜぇと言いながら、河原にたどりつく。
少し冷静を装っているのが、嫌になった
44馬頭琴:2007/09/26(水) 00:21:13 ID:???
河原に降りて、ごつごつした石をかきあつめて椅子を作る。
さっそく缶ビールをあけて、川に乾杯。
気分がよくなってきた俺は歌いだした。
歌っていたら犬が寄って来た。
ふっと、物足りなさを感じて、酔っ払いは家に戻った。
家からギターを持ち出す。しばらくぶりに見るそいつは少し拗ねていた。
脇にかついで、ぜえぜえ言ってまた河原。
全力でぜえぜえ言ってやった自分が好きだ。
チューニングなんて関係ない、俺は思うがままにかき鳴らす。
誰が聞いても下手糞な、俺のソウル。
魂をぶつけるのは川、そして犬。
観客としては立派じゃないか、暮れない夕日に俺は気分を高めていく。
急激に腹が空いて、俺はギターを置いた。
肉まんをほおばる。
犬が近づいてくる。
なんだこいつ、俺の歌をきいていたんじゃなく、肉まんが欲しかったのか。
犬がマヌケな顔してウロウロしてる。
俺はギターを振り上げて叩きつけた。
割れるギター。割れる音。驚く犬。イラつくそれがギリギリと響いた。
割れたギターの真ん中に、もう一個の肉まんを放り捨てた。
マヌケな顔した犬は、おどおどときょろきょろとしていたが、やがてゆっくりと逃げていった。

浮ついた蚊がビールに飛び込んだ。俺は缶ごと川に投げ捨てた。
45おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2007/09/26(水) 00:21:25 ID:???
なんかきたー!
46馬頭琴:2007/09/26(水) 00:22:18 ID:???
ある日、俺は商店街からの帰り道。
夕暮れ時で、棒みたいなものや塵みたいなものや、なんだかよくわからないものが空を好き勝手にしてるとき。
なんにも考えてない俺は、適当に色々とつぶやいてた。
「あっけんほー」
ふいに出た謎の言葉が気に入った。
「あっけんほー、あっけんほー」
何度も繰り返して遊んでいた。
「あっけんほー」
いつのまにか後ろからついてきていた子供が同じ言葉を発した。
振り返ってしまうと、誰だか知らない、いつのまにかの子供と目があった。
止まる夕暮れ。
「あっけんほー!」
いつのまにかの子供は元気よく叫んだ。
「あっけんほー」
俺が、戸惑いながらつぶやいたら、すごく嬉しそうな顔をする。
「あっけんほー、あっけんほー。ぐーるぐる」
いつのまにかの子供は腕をぐるぐるまわしながら言った。
そのまま、あっけんほーとぐるぐるをくりかえしながら俺の横を通り過ぎて、遠くへと走り去った。
俺は何か動けないでいたので、じぃっとその方向を見ていた。

トンボが俺の肩に止まって、またすぐに飛んでいった。