そろばんを習うお年寄りが、じわりと増えている。自分たちでサークルをつくったり、
珠算教室で子どもたちと机を並べたり。かつての腕前を取り戻そうと励む人もいれば、
「認知症予防に」と始めた初心者もいる。「脳トレーニング」に役立つとされる
そろばんの効用に、熱い視線が集まる。
「ご破算で願いましては、67円な〜り」。数字を読み上げる声に合わせ、ぱちぱちと
玉をはじく音が響く。尼崎市東難波町4の市立総合老人福祉センターで月2回開かれる
そろばん教室。受講生は、同市内に住む60代以上のお年寄りたちだ。
教室は2000年にサークル活動として始まった。当初約10人だったメンバーは35人に
増えた。「指先を動かし、脳の活性を高めるのが最大の狙いです」と講師の喜(き)来(らい)
音二郎さん(76)は話す。
「上達するのが楽しくてやめられません」と受講歴約10年の女性(87)。「転ばなく
なったのも、そろばんのおかげかな」と笑顔を見せる。「認知症予防に」と3年前に始めた
男性(71)は「休まずに通ったら指が動きを覚えてきた」と満足そうだ。
神戸市内では、子どもと一緒にそろばんを習う高齢者も見かけるようになった。同市灘区の
神戸新聞文化センター(KCC)六甲道の教室では、受講生13人のうち8人がシニア世代だ。
「気がつけば、子どもより数が多くなっていました」と講師の山下一秀さん(72)。
最年長の男性(87)=同市中央区=は、病気やけがで右手が思うように動かなくなり、
習い始めた。「字をうまく書けないのが悔しくて。指先から脳に指令が行くように」と
張り切る。
事務の現場から姿を消して久しいそろばん。だが「集中力や計算力がつく」「右脳を鍛える」
など効用が見直されている。
尼崎市は04年に「そろばん特区」に認定され、小学校でそろばん教育がスタート。
11年度に全面実施された新学習指導要領では、そろばんを使った算数授業が小学3、4年の
必修になった。珠算検定受験者も増加傾向で、日本珠算連盟によると11年度は21万6千人。
05年度から約2割増えた。
「播州そろばん」の業者らでつくる播州算盤(そろばん)工芸品協同組合(小野市)の宮永英孝
副理事長(60)は「伝統工芸品のイベントなどに出展すると、多くの高齢者が買い求める」
と話す。同組合では、高齢者でも扱いやすいように玉を大きくし、数字の位を記したそろばん
などを商品化した。
宮永さんは「そろばんは400年以上の歴史がある日本の教育の原点。お年寄りから孫まで
3世代が楽しみ、学べる存在になってほしい」と期待する。
●真剣な表情でそろばんを習うお年寄りたち=尼崎市立総合老人福祉センター
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