【コラム】あまりに政治的な製造業向けメッセージ 「一票の格差」はサービス産業対製造業の格差(野口悠紀雄) [12/03/12]

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1@@@ハリケーン@@@φ ★
 「日本で1個1000円するハロゲンランプが、中国では8円だ」と前回述べた。中国
の賃金が低いのだから、当然のことだ。

 ただし、中国生産の強さは、価格の安さだけではない。1月21日付のニューヨーク
タイムズは、アップルの中国における生産方式について、詳細に伝えている。その中に、
次のようなエピソードがある。

 2007年、最初のiPhone販売開始予定の1カ月前のこと。iPhoneの画面
にすり傷がつくのを見て、スティーブ・ジョブズが癇癪を爆発させた。彼は腹立たしげに
iPhoneを取り出し、プラスチック製スクリーンについた細かいすり傷を全員が見える
ように掲げた。そしてジーンズから鍵を取り出して言った。

 「ユーザーは、iPhoneも鍵もポケットに入れて持ち歩く。すり傷がつくような
製品を売るつもりはない。6週間以内にガラス製スクリーンに変更せよ」と。

 アップルはiPhoneのスクリーン仕様を変更し、中国にあるフォックスコンの工場
に対して生産ラインの全面見直しを要求した。ガラススクリーンが工場に到着し始めたのは
、真夜中だった。工場の現場監督は、寮に住む8000人の作業員を叩き起こした。

 彼女たちはビスケットとお茶を与えられ、仕事場に連れて行かれた。それから30分で
、ガラス製スクリーンをフレームにはめる作業が、12時間シフト体制で開始された。
96時間後には、工場は1日1万台のiPhoneを生産していた。それから1カ月後、
アップルは100万台のiPhoneを販売した。それ以来、フォックスコンは、2億台
のiPhoneを生産した。

 「その速度と柔軟性は息を飲むほどだった。同じことをできる工場は、アメリカにはない」

 「彼らは一晩で3000人を雇い、寮に住むことを納得させる。そんな工場がアメリカ
にあるだろうか」

 「iPhone組み立て作業の監督に必要な8700人の工業エンジニアを見つけるのに
、アメリカなら9カ月かかる。しかし、中国だとわずか15日だ」

 「いまや、サプライチェーン全体が中国にある。ゴム製ガスケットが1000個必要?
 それなら隣の工場だ。100万個のねじが必要? それなら1ブロック先の工場だ。
そのねじに変更を加えたい? 3時間あれば十分だ」

 こうしてアップルは巨額の利益をあげた。もちろん問題は、それによって雇用がアメリカ
から失われることである。新しい産業が成長しても、年配の失業者は、職を得られない
からだ。

<中略>

■「一票の格差」はサービス産業対製造業の格差

 日本でも同じ事情がある。図は、製造業の比率が20%以上の県を赤で示した。中部
地方がそれに該当するのは予想通りだが、北陸地方や東北地方の一部もそうであることは
、やや意外だ。

ソース:東洋経済オンライン
http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/2d4fd3181071044de9e8f5772ee8a860/page/1/
http://lib.toyokeizai.net/public/image/2012030700995750-2.jpg

(つづく)
2@@@ハリケーン@@@φ ★:2012/03/18(日) 19:42:29.09 ID:???
>>1のつづき

 それに対して東京近郊では、製造業の比率は10%程度である。福岡の比率も意外に
低い。ここは、サービス産業地域なのである。図では、これを青で示した。日本の工業
地帯は、高度経済成長期の頃とはかなり変わってしまっている。中学生のとき、「京浜
工業地帯」とか「臨海工業地帯」という言葉を習ったが、それは大昔のことなのだ。

 ところで、日本には、「一票の格差」がある。参議院議員(選挙区、09年)1人当たり
選挙人名簿登録者数を見ると、東京、神奈川が100万人を超えているのに対して、製造業
の比率が20%以上の県のうち山形、富山、長野、岐阜、福井、福島で50万人未満である。

 首都圏で一票の価値が低いことは、サービス産業の声が政治に反映されにくいことを
意味している。それに対して、一票の価値が低い地域で製造業の比率が意外に高いのだ。

 「一票の格差」は、これまで、「都市地域対農村地域」の問題と考えられていた。その
要素はいまでもあるが、「サービス産業対製造業」の問題でもあるのだ。今後地方都市で
工場閉鎖の動きが進むと、さらにその傾向が強まるだろう。

 製造業の縮小による雇用問題は、「経済的には望ましい方向が政治的な抵抗のために
実現できず、経済的に必要なことと逆方向の政策が取られる」という意味で、経済問題と
いうよりは、政治問題である。高度成長期の日本では、農業が政府の補助に依存する産業
となった。これからは、製造業が政府補助に依存するようになる。雇用調整助成金、エコ
カー補助金、エコポイント、そして円安政策と、失業を顕在させないための政策がすでに
行われている。

 産業構造が転換するとき、失業者の増加は不可避だ。アメリカはこれを甘受しつつ産業
構造を転換しつつある(ただし、オバマの政策に見られるような抵抗もある)。

 日本では、政府の施策で失業率の上昇が抑えられている。しかし、これは必ずしも望ま
しいとはいえない。第一に、過剰人員を抱えたままでは、企業の利益は低迷を続けざるを
得ない。第二に、雇用が守られるのはすでに雇用された人だ。これから雇用される人と、
現在のシステムの外にいる人は守られない。実際、若年者の失業率は、9%程度と平均の
2倍の高さだ。

-以上。省略部分はソース参照-