>>2の続き
ソニーには、壊れないと同時に「画期的なものをつくる」というイメージもあった。それも、
50代以上が持っていたもののようだ。しかも今や、その世代も、そんなイメージをソニーに
抱いていないのは事実である。
■かつての「画期性」はどこへ
ソニーの画期性を代表するもの、そして最後のもの、と言っていいのが「WALKMAN
(ウォークマン)」かもしれない。再生専用テープレコーダにヘッドホンをつけた“だけ”
の製品である。
1979年に初めて登場したが、あっという間にブームを巻き起こした。「持ってて当然」の
ものになり、他社でも簡単に作れるものだったにもかかわらず、「ソニーでなければダメ」
な製品でもあった。
ただし当時のソニーがすでに画期性を失っていたのは、ウォークマンの発売については
社内から強い反対があったことでもうかがえる。出してみたら消費者が敏感に反応したので、
ソニーは慌ててテコ入れをした、というのが実態である。
それでも、どんどん小型化し、多彩なデザインを展開し、時代の流れに合わせてCD版も
展開するなどの努力はされていた。しかし、どんどん画期的なものではなくなり、ソニー
タイマーの評判もあって消費者に飽きられていく。
アップルが「iPod」を発売すると、ウォークマンのユーザーはあっさりと乗り換えていった。
そこに、ためらいは微塵もなかった。同じようなものをソニーがつくっても、ウォークマン
と同じものを他社がつくった時のように、見向きもされない。
今のソニーに、誰も画期性を期待すらしていないのではないだろうか。「ソニーならば」
という声は絶えてしまった、と言っていい。
ソニー自体も、そうなってきているのだろう。ウェブパソコンと呼ばれる安価なパソコンが
注目されはじめた時、ソニーのパソコン開発担当者と話をしたことがある。
その時、「ソニーはウェブパソコンを出さないんですか」と、質問した。戻ってきた答えは、
「今のところ、出す予定はありません」。流行に乗らず独自の道を進む覚悟なのか、
といえば、そうでもない。
その担当者は次のように続けたのだ。「様子を見て、今のブームが本物ならば、出します」
売れると分かったものは出す、ということだ。そこに画期性を追求する姿勢はない。
それどころか、かつてのソニーとは対極にあったはずの「物真似」の姿勢しかない。
そんなソニーから、かつてのように消費者をワクワクさせる製品が出てくるわけもない。
組織的には大きくなってしまったソニーは、ただの大企業になってしまい、消費者に
支持されていた「ソニーらしさ」を失ってしまったらしい。そこに、ソニー凋落の原因が
あるにちがいない。
◎執筆者/前屋 毅
1954年生まれ。「週刊ポスト」の経済ライターを経て、フリージャーナリストに。
企業、経済、政治、社会問題などをテーマに執筆を展開している。主な著書に
『全証言 東芝クレーマー事件』『安全な牛肉』『成功への転身――企業変質の
時代をどう生きるか』『ゴーン革命と日産社員――日本人はダメだったのか?』
『学校が学習塾にのみこまれる日』などがある。