アジア市場の拡大を背景に、外資系企業が日本に研究開発拠点を新設、拡充する動きを
強めている。化粧品世界最大手の仏ロレアルは1月、川崎市の研究開発施設を拡充。
ヘリコプター製造大手の仏ユーロコプターなども、拠点の新設に動き始めた。優れた
素材や加工技術を持つ日本の研究機関や中小企業と協業し、開発した商品をアジア市場
へ売り込む狙いがある。組み立て産業の空洞化が進む日本にとっても、埋もれた技術の
活用や雇用拡大につながる可能性がありそうだ。
「景気の先行きは不透明だが、日本の研究開発機能の強化が最も戦略的な投資と判断した」。
世界130カ国で事業展開する仏ロレアルのステファン・オルティスR&Iアジア統括
ディレクターは1月下旬、川崎市の研究開発拠点であった経営説明会で、日本の研究開発
部門の重要性を強調した。
ロレアルは欧米など世界5地域に研究開発拠点を持つ。なかでも日本は、高機能素材や
先端技術を持つ企業や大学との協業が期待できるという。例えば、日本の自動車塗料
メーカーが持つ、あらゆる気象条件下で自動車のボディーを保護するノウハウが、
日焼けに強く落ちにくい化粧品が生まれるきっかけになった。また、日本の消費者は
品質への要求が世界一高いとされ、美白やアンチエージング(老化防止)機能を強く
求める声が研究者のやる気を後押しし、ヒット商品につながるという。
同社は1月、川崎市の施設の研究員を40人増員して200人体制とし、所長に初めて
日本人を据えた。オルティス氏は「日本人の美容習慣はアジア各国に強い影響力を
持っている」といい、この施設をアジア市場のニーズをつかむ中核拠点と位置づける。
仏ユーロコプターも4月、神戸空港(神戸市)の1万4380平方メートルに整備場を
新設し、装備品の研究開発拠点を設ける。投資額は約10億円。同社は「日本は中小企業
が高い技術を持つ、世界でも特殊な環境。共同開発などで地元企業の技術力を世界に発信
したい」と説明する。
またスウェーデンのボルボや、米化学大手3M(スリーエム)も、数年内に日本へ研究
開発拠点を整備することを決めた。ボルボはバスやトラックの先端技術、3Mは医療用
テープなどの開発準備を進める。
経済産業省の外資系企業動向調査(09年度)によると、日本から撤退したり外資比率を
下げた企業(金融・保険・不動産を除く)は前年度比3割増の164社と急増。新規参入の
82社を上回り、製造業の設備投資額も前年度比43.8%減の4264億円と2年連続で
減少した。世界景気の後退や円高に伴う人件費の高騰などが響いたとみられる。
一方で、進出企業1社当たりの平均研究開発費は、32.6億円と1割増加し、総額でも
7179億円と、ほぼ前年度並みだった。日本は研究開発拠点としては外資から一定の
評価を得ていると言える。ただ、巨大市場を抱える中国に研究開発拠点を構える動きも
加速しており、国を挙げた拠点誘致戦略の強化がますます重要になりそうだ。
●研究員数が増えた日本ロレアルの研究開発拠点の一室
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http://mainichi.jp/select/today/news/20120306k0000m020054000c.html