(2012年2月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
貿易を巡る対立で、米国と中国が同じサイドに立つ光景はかなり珍しい。
だが、欧州連合(EU)が航空機を対象に含めた温暖化ガス排出規制を導入したため、
ライバル同士がタッグを組むこととなった。
■理にかなったEUのルール
新ルールでは、欧州を離発着するすべての航空会社に二酸化炭素(CO2)の削減が課せられる。
削減できなければ未達分を埋め合わせる排出枠を購入することを義務づける。
排出量は各便の総航行距離に比例して決まり、EU域内を飛行した距離だけが対象ではない。
中国政府は、EUが欧州の領域を超えて課税することに反発。同国の航空会社がこのルールに従うことを禁止した。
米下院も同様の見解を表明した。
EUルールには評価できる点が多い。航空機の温暖化ガス排出量は世界全体の2%にすぎないが、
今後これが年3〜4%の割合で増加する見通しだ。またEUはすでに他業種に同様の規制を設けており、
排出量の面で重要度が高まる航空業界に対して規制を課すのは理にかなっている。
航空会社の負担は大きくない。排出枠の割り当て方針は全体に寛大で、
初年度は必要な排出枠の15%を支払えばよい。
航空会社がコストを乗客に転嫁しても、大西洋航路の場合、1人当たり10ユーロ程度の追加料金ですむだろう。
■国際社会はEUと議論を
一時的に共同歩調を取る米中連合の主張に共感できる部分もある。
EUルールは領空主権を定めたシカゴ条約と矛盾するように見える。
1944年採択の同条約は、自国内の徴税制度を外国の航空会社に適用することを制限している。
さらに、EU側の一方的な通告は、国境にまたがる規制を受け入れてきた航空業界の協調精神とは相いれない印象がある。
もちろん同条約が起草された当時は排出ガスは問題になっておらず、
また最近の地球温暖化防止に向けた協議には進展がみられない。
今回のEUの規制がもたらす意義は、少なくとも航空機の排出ガス問題を議論のテーブルに乗せたことである。
そのうえ交渉の余地もある。新ルールによる実際のコスト負担が発生するのは13年以降。
今後数カ月が絶好のチャンスだ。航空会社も各国政府もこの機を逃してはならない。
国際社会があと一歩努力すれば、高まった緊張が和らぐだろう。
対立が深まれば、貿易戦争に発展する恐れもある。しかし、その合意はEUの提案から後退してはならない。
薄まった内容で合意しても意味がないのだ。
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819584E2EAE2E2E08DE2EAE2E0E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2 http://www.nikkei.com/content/pic/20120208/96958A9C93819584E2EAE2E2E08DE2EAE2E0E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2-DSXBZO3865133008022012000001-PB1-6.jpg 中国政府は、航空機を対象にしたEUの温暖化ガス排出規制に反発している
(北京国際空港を移動する中国国際航空の旅客機)=ロイター