【基礎研究】米国は将来のノーベル賞学者を追い出すな--英Financial Times [10/17]

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1ライトスタッフ◎φ ★
10月初旬、トーマス・サージェント教授とクリストファー・シムズ教授にノーベル経済学賞が
授けられたことで、米国は今年も再び受賞数で最大のシェアを獲得した。米国市民は7つの
賞を受賞(厳密に言えばノーベル賞ではない経済学賞を含む)しており、ノーベル賞に対する
米国の支配はほとんど衰える兆しが見えない。

だが長期的には、米国の支配は衰える運命にある。ドイツも第2次世界大戦前は同じように
ノーベル賞で圧倒的なシェアを占めていたが、同国の最も優れた科学者の多くが戦後海外に
移住したことや、20世紀後半に連邦政府の資金援助を受けた米国の研究大学が台頭したことで、
この流れに終止符が打たれた。

今、中国を筆頭とするアジア諸国が基礎研究に巨額の資金を投じているため、最終的には
互角になるだろう。

■自国の衰退に巨額の投資をする愚

だが、米国はこうした傾向を遅らせ、米国例外主義を唱える有力な根拠を守るために
十分な努力を払っていない。

米国は、修士号や博士号の取得を目指す学生を自国の大学に引き寄せるためだけでなく、
卒業後に彼らを国内にとどめるために、もっと多くのことをする必要がある。

さもなければ、米国の納税者は、自国の主要な経済的優位性の衰退に巨額の資金を投資する
ことになってしまう。

科学と経済学でノーベル賞を受賞した323人の米国人は、エリート中のエリートだ。そして、
米国が自国を科学研究を引き付ける場所にするために戦後取った戦略の並外れた成功の象徴である。

何十年もの間、研究を行い、報酬を得て、家庭を築くための場所として米国より優れた国は
なかった。最初の2つの魅力は、米国国立衛生研究所(NIH)や全米科学財団(NSF)のような
機関を通じて研究資金を提供する手法を真似るだけの資金を持つばかりか、経済も米国より
早いペースで成長しているアジアの国々から大きな挑戦を受けている。

米国はこれに対して、3つ目の魅力――最先端科学の学位を持つ人たちが簡単にビザやグリーン
カード(永住ビザ)を取得でき、最終的に米国市民になれるという魅力――を弱めた。グリーン
カードとビザの割り当ては、中国人やインド人の大学院生が第2の祖国に知力を提供する機会を
減らしている。

悪しき経済政策を立案しなければならないとしたら、これより悪い策を立てるのは難しいだろう。

まず、研究に多額の資金を投資し――NIHだけで医学に年間310億ドルを投資している――、
最先端の施設を持つ世界クラスの大学を建設する。次に、最も優秀な若い科学者たちを米国に
呼び寄せて最前線で勉強させる。最後に彼らを、米国で身につけた知識とともに本国へ送り返すのだ。

■ノーベル賞のハロー効果、様々な産業のイノベーションに波及

ノーベル賞の目的は基礎研究に賞を与えることだが、賞は大学にハロー効果をもたらし、実際的な
イノベーションにつながる。

スタンフォード大学(その教授陣は26のノーベル賞を受賞している)はシリコンバレーの知性の
発生源であり、同大学のコンピューターサイエンスの博士課程は、グーグルのラリー・ペイジ氏や
ロシア生まれのセルゲイ・ブリン氏などの優れた人材を数多く輩出した。(※続く)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/25965
2ライトスタッフ◎φ ★:2011/10/17(月) 16:37:18.11 ID:???
>>1の続き

このような好循環はハイテクの枠を超えて広がる。政府や大学の支援を受けた研究(米国科学振興
協会=AAAS=によると、米国政府は学術研究費の60%を提供している)は、製薬業界、製造業界、
軍需産業の研究開発拠点のための人材基盤を作り出している。

米国の126の研究大学は、特に物理学、工学、材料科学の分野で世界中の学生に強力な引力を発揮
している。化学と生産工学の分野で博士号を目指して米国の大学で勉強している学生の3分の2
――その他の分野で博士号を目指して勉強している学生の半分以上――は外国人だ。

だが、彼らが米国にとどまるのは難しくなっている。特にインドと中国からの学生にとっては
ハードルが高い。

■米国内にとどまらなくなった「頭脳」

グリーンカードに年間14万人の制限があるだけでなく、1カ国当たり7%の割り当てもある。全米
政策基金(NFAP)によると、グリーンカードの1分類に対してインド人の申請者が21万件もあり、
何もしなければ、処理するのに70年かかるという。

3億1000万人の人口を擁する国で高度な技能を有する移民にこのように厳しい制約を課すことは
ほとんど意味をなさないし、景気低迷と保守主義者の移民に対する敵意とが相まって、多くの
外国人は米国に定住しようと試みることにすら慎重になっている。

カウフマン財団の調査は、米国にいるインド人学生のわずか6%、中国人学生の10%しか米国に
とどまる意向がないことを示している。

その一因は、経済的機会のバランスが変化していることだ。米国あるいは欧州があらゆる最高の
仕事を提供した時代は去りつつあり、中国人学生は母国に可能性を見いだしている――彼らの
祖国は西側に追い付くために応用研究に多額の資金を投資している。だが、米国は移民政策に
よって自らを傷つけている。

この事実が非常にはっきりしているため、移民政策の改革は、カリフォルニア州の下院議員ゾー
・ロフグレン氏のような民主党議員だけでなく、2012年の有力な共和党大統領候補であるミット
・ロムニー氏にも支持されている。

明らかにプライベートエクイティファンドでの経歴からこの問題には敏感なロムニー氏は、
最先端科学の学位にグリーンカードを「ホチキスで留める」ことを望んでいる。

失業率が高く、中国に対する敵意が高まり、外国人が「米国人の雇用を奪っている」という不安が
広がっている中、移民政策の改革は説得するのが難しい問題だ。ダメージが目に見えないため、
米国はその緊急性に気付いていないのかもしれない――科学者や起業家が静かに他国に定住して、
米国の機会が失われていっているのだ。

■失われる米国の優位

ノーベル賞における米国の優位は、今後20年間で挑戦を受けるだろう。1つの指標は、トムソン
・ロイターが指摘する、アジアでの材料科学における研究論文や引用の「目覚ましい増加」だ。
中国人科学者が過去5年間で5万5000件の材料科学の論文を発表しているのに対して、米国の
論文は3万8000件だ。

米国の質はまだアジアの量を凌駕している。研究の影響力では米国が優位に立っている(そして
医学の分野では米国のリードがもっと大きい)。だが、米国自身の歴史は、豊かで断固たる決意を
持つ国が、学術的な優位の世界秩序を崩壊させ得ることを示している。ノーベル賞の栄誉を当てに
するのは賢明ではない。