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>>1からの続き)
人がどんなときに幸福を感じるかという測定は難しいが、さまざまな活動に関して、不快な心理状態で
過ごしている時間の割合を使って、幸福や不快を測定しようとする「U指数」(U-index)というものがある
Uは「unpleasant(不快な)」「undesirable(好ましくない)の略。以下は、米国中西部のある都市に住む
女性1,000人余りを対象にした調査の結果だ。
女性たちが不快な状態で過ごしていた時間は、朝の通勤時間の29%、勤務時間の27%、子どもの世話をしている
時間の24%、家事をしている時間の18%、テレビを観ている時間の12%、そしてセックスをしている時間の5%を占めていた。
子どもの世話のU指数には複雑な要素がからむため、ここは通勤時間に焦点を絞ろう。
通勤は最も不快な行動のように見えるが、注目すべきは、この調査結果は単にラッシュアワー
の苦痛を証明するだけではないという点だ。
『幸福の政治経済学―人々の幸せを促進するものは何か』という著作を発表したスイスの経済学者
ブルーノ・フライとアロイス・スタッツァーは、「通勤パラドックス」(commuting paradox)と
彼らが呼ぶ傾向を明らかにした。それは、人は住むところを選ぶとき、長い通勤時間の苦痛を
過小評価するというものだ。
つまり、たとえ45分余計に通勤時間がかかっても、部屋数が多く芝生の庭も付いた郊外の家に住めば
幸せになれると人々は考えがちなのだ。しかし実際には、長い通勤時間はそれに見合うものではない
ということがわかってくる。フライ氏とスタッツァー氏の計算によると、通勤に1時間を要する人の場合、
職場に歩いて通える人と同程度の満足度を得るためには、その人よりも40%多くお金を稼がなければならないという。
それなのに、われわれの通勤時間はどんどん長くなっている。『New Yorker』誌の記事を引用しよう。
米国人のおよそ6人に1人は、通勤に片道45分以上の時間をかけている。米国国勢調査局の分類で
「超長距離通勤者」(extreme commuter)に該当する、片道90分以上をかける通勤者の数は350万人に達し、
1990年からほぼ2倍に増えている。
われわれには、お金を適切に使うということが難しいようだ。さらに、富を得て、贅沢な暮らしをするようになると、
天気の良さや冷えたビール、チョコレートなどといった「日常の些細な喜び」を味わう能力が低下するという研究結果も存在する。
(終わり)