NTTデータは現状比1割増の1万人超、日立製作所が同2倍超の6000人、富士通も
同2倍超の5000人――。これは数年後、国内ITベンダーが抱えるようになるインド
拠点におけるIT技術者の数だ。米ガートナーの予測では2014年まで、日本のITサー
ビス市場の成長率は円建てで年平均0.8%。世界で最低の伸びと予測されている。
一方で新興国の同市場は年平均10〜11%の高成長が続く。旺盛なIT投資が見込
まれる海外市場の攻略や海外拠点へのITサービスの拡充には、技術力が高く賃金が
安いインドのIT技術者の確保が重要になっている。
既に米IBMや米ヒューレット・パッカード、米アクセンチュアといった米ITベンダーが
インド拠点に抱える技術者はそれぞれ6万〜8万人。日本のユーザー企業がグローバル
展開を加速させるなか、国内ベンダーも遅ればせながらインド拠点の人員数を急激に
増やし、海外の顧客へのITサービスを拡充しようとしているわけだ。
ここで気になるのは、インドや中国といったオフショアに仕事が流れる一方で、
日本のIT技術者の雇用は今後どうなるのだろうかという点だ。東日本大震災の発生に
より日本の産業構造の見直しやサプライチェーン再構築の必要性が指摘されるなか、
大手に下請けが積み重なる「ゼネコンモデル」を維持してきた国内IT業界も抜本的な
構造改革が避けられなくなっている。
■「ITゼネコンの維持は無理」
「オフショアの拡大で国内ITサービス市場の雇用吸収力は確実に減る。ITゼネコン
モデルの維持もできなくなる」とガートナージャパンの足立祐子リサーチ部門ソー
シングリサーチディレクターは断言する。同社の推計では中国・インドなどの人員を
使ったシステム開発・運用のオフショアリングは今後も増え続ける。国内からオフ
ショアへの発注規模の実績は2009年で3588億円。この数字は、「いずれ現在の
日本のITサービス市場の1割相当となる1兆円規模に膨らむ可能性がある」(足立
リサーチディレクター)という。海外へ仕事が流れ、国内の下請けシステム会社の
業務は減り、ITサービス業界で必要となる人員も減っていくわけだ。
既にユーザー企業やITベンダーでも国内人材の雇用問題が顕在化しつつある。
■オフショア開発の発注拡大に口ごもるユーザー企業
「オフショア開発は大幅に増やしたいと思う。しかしいつまでにどのくらいの発注
規模にするかは明確に答えにくい」。ある大手電機メーカーで情報システムやITイン
フラを統括する幹部は、オフショアへの発注規模拡大について聞くとこう答えた。
同社はインドや中国などに、オフショア開発を統括するセンターを自前で構築している。
自社で開発要員を抱えつつ、需要に応じて現地企業へも外注し、開発体制を柔軟に
調整できるようにしている。
オフショアの人員数や発注規模を増やすつもりだが明確に答えられないのは、
「時期や数字を明言してしまうと、国内のシステム要員や開発・運用の外注先から
『我々の仕事は海外に行ってしまうのか?』と問い合わせが来るなど、思わぬ波紋を
呼んで大騒ぎになる」(同幹部)というのが理由だ。しかし同企業は、日本で運用
していた基幹システムを徐々に海外のデータセンターに移管しつつある。いずれ、
大部分の新規開発や保守・運用を海外やオフショアで手がける方が現実的となりつつ
ある。(※続く)
◎
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20110414/359418/ >>1の続き
外資系ITベンダーに基幹システムの開発・運用を全面アウトソーシングしたある大手
製造業も、国内IT人材の雇用維持に悩んだ。欧米やアジアなど世界の主要エリアごとに
構築しているシステム運用などをアウトソーシングし、ITガバナンスの統一も図った。
これまで海外拠点それぞれで手がけていたシステム運用の仕事はインドへ移管。その
過程で、海外拠点に自前で抱えていたIT人材をリストラして減らしたという。「そう
しないとアウトソーシングした意味がなく、IT関連のコストは下がらない」と同社幹部
は話す。
一方で、雇用を柔軟に調整できない日本ではそうはいかなかった。経営を理解しつつ
IT戦略を考えられるIT人材として育成することにしたり、別の部署に配置転換したり
して対応することにしたという。
■「日本での定期的な新規雇用は見直すべきか」
ITベンダーも同様の課題を抱えつつある。
「このまま毎年、新入社員も含め日本人の新規採用を定期的に実施するのは経営リスク
になるかもしれない」。複数の海外企業の買収を手がけてきた国内ベンダー大手の幹部
はこう問題意識を打ち明ける。同社は景況感やIT投資の状況をみながら、傘下の海外
グループ企業でリストラを実施してきた。「欧米では雇用を調整できる土壌があり、
他のセクターがこうした人員を吸収する。しかし日本の雇用関係は世界一と言っていい
くらい硬直的。このまま毎年数百人の日本人社員を新規採用するべきか見直すべきか
悩ましい」(同幹部)という。日本のユーザー企業のIT投資も海外へ向かうことが多く
なり、ITサービス市場も大きく伸びるのは海外市場だ。「インドでの人員はまだまだ
増やす必要があるが、日本の人員はそこまで増やさなくていいのかもしれない」(同幹部)。
別の大手ITベンダーも国内人員の扱いについて課題を持つ。同社は複数のシステム会社
を合併してきたが、その過程で膨らんだ日本国内での人員をどう活用していくかを
模索中だ。「海外事業の強化を次の成長戦略に据える中で、再編で増えた国内の人員を
どうにかして減らせないか検討したことがある」と同社幹部は振り返る。
筆者は日経コンピュータの4月14日号で「ITサービス68兆円市場争奪戦、世界で国内
ベンダーに勝機はあるか」という特集を執筆した。国内ベンダーや米ITベンダー、
そしてインドITベンダーが、海外展開する日本の顧客を貪欲に獲得していこうとする
各社の戦略を取り上げた。
同特集では触れなかったものの今回の取材を通じ、ユーザー企業やITベンダーのグローバ
ル化と国内IT業界の雇用問題が表裏一体の関係にあることを改めて思い知らされた。
ユーザー企業やベンダーが生き残るために育成すべきIT人材とは、そしてグローバル
化の時代でも必要とされるIT人材の姿はどうあるべきか――。これはユーザーやベン
ダーを問わず各社の経営に直結する話であり、IT業界に従事する関係者が今後直面する
課題でもある。次はこのテーマを日経コンピュータの特集で追ってみようと考えている。
◎執筆者/宗像 誠之=日経コンピュータ