今年の就職状況は近年にないほどの落ち込みだった。2008年秋のリーマンショック
から続く不況の影響だ。それは就職率にはっきり出ている。
この4年間の就職率は、各大学の公表分の集計で07年から順に80・5%→81・6%
→81・8%と8割超で推移してきた。しかし、今年は74・4%にとどまった。昨年に
比べて7ポイント近くの下落だ。
企業の採用では技術系の採用数はあまり減らなかったが、事務系の採用数が減ったのが
大きい。企業別に見ても、昨年に比べて三井住友銀行が1112人減、みずほフィナン
シャルグループが約980人減、日本生命保険が778人減、東芝480人減などとなって
いる。これらの企業を含め、日本を代表する300社について、採用人数を昨年と比較
したところ、およそ30%も減っている。
こうした採用枠の減少による大企業の厳選採用の動きは、就職活動をサポートする
大学にとっても逆風となった。しかし、厳しい就職状況の中でも、高い就職実績を
残した大学はたくさんある。4、5ページの表は、今年の文系、理系それぞれの
就職率が高い大学・学部のベスト100だ。今春卒業した約50万1000人分を集計した
ものである。
■地方国立大の理系学部が上位に
今年の理系全体の就職率は79・9%で、文系は72・4%だった。理系学部の就職率が
高く、文系学部が低い、この傾向はずっと続いている。
理系トップは大阪薬科大学の薬学部で99%。薬学部では薬剤師国家試験の受験資格を
得るための修業年限が、4年から6年に伸びた。今年は制度が代わって5年目で、まだ
卒業生はいない。大学によっては薬学部に4年制の学科を設けており、その就職実績に
なる。
薬学部は全体的に就職率が高く、この4年間で見ても07年から87・4%、87・0%、
89・7%と推移したが、今年は72・2%に終わった。企業の薬剤師ニーズの高さが、
これまで就職率を引き上げてきた。だが、4年制学科は薬剤師養成を前提としないため、
その卒業生の就職率が下がったとみられる。就職率の高い薬学部だが、入試ではあまり
人気のない系統だ。全国に数多く新設されたことに加えて、学費が2年分増えたことも
あり敬遠され、受験生にとっては狙い目の学部になっている。
2位は国際医療福祉大学の保健医療学部。同学部は看護学科を含むリハビリテーション
系の学科のある学部だ。3位も同大の小田原保健医療学部が入った。
今年は工学系も上位に多数進出している。6位の富山県立大学・工学部、7位の長岡
技術科学大学・工学部、9位の岡山大学・環境理工学部など。昨年は薬学部が上位に
来ていたが、それが減って工学系の学部が増えている。
また、地方の国公立大理系学部の就職率の高さが目を引く。3位の新潟大学・農学部、
5位の信州大学・繊維学部など、ベスト10に5校入っている。入試の段階で6教科7科目
をしっかり学んできており、基礎学力の高さが就職に有利に働いたとみられる。
さらに、農学系の就職率も高い。名古屋大学、山形大学、山口大学、岩手大学など
上位には国立大の農学部が多い。不況になると就活でも食品系の企業が人気になる。
好不況にかかわらず需要があるため人気が高い。そのこともあって、農学部の就職率が
高かったようだ。(※続く。
>>3以下にランキング表)
◎
http://www.toyokeizai.net/business/industrial/detail/AC/461f74619863cf1d122a96ca217ca34e/page/1/ >>1の続き
■団塊世代の退職で教員採用は活発
一方、文系トップは東京福祉大学・社会福祉学部の97・3%。2位も北海道医療大学
・看護福祉学部で、国家資格が取得できる学部がトップだった。上位には福祉系の
学部が並んでいる。
今年の特徴は、教育系学部の就職率が高いことだ。教員養成というと、国立大が中心
とみられがちだが、トップは私立の岐阜聖徳学園大学・教育学部で、96・ 7%だった。
次いで岐阜大学・教育学部、富山大学・人間発達科学部と続く。ランキング上位の
国立大は、教育系学部が圧倒的に多い。団塊の世代の大量退職で、大都市圏では教員
不足が起きており採用は活発だ。その結果、各大学とも就職率が高くなったとみられる。
また、3位の安田女子大学の現代ビジネス学部の就職率は97%と高い。今年、女子は
就職が厳しかったが、表中には女子大が目立つ。岐阜女子大学、昭和女子大学、ノー
トルダム清心女子大学、日本女子大学、椙山女学園大学などだ。しかも複数の学部が
ランキングに入っている。危機感が強かった女子だけに、大学の就職支援が実績に
結び付いたといえよう。
■関東や近畿では私大理系が強い
次に地域別を見てみよう。地域別で最も就職率が高かったのが中部で80・2%。
次いで中国・四国の79%だった。これは昨年と同じ順位で、大企業の多い関東は
72・9%、近畿は72・6%にとどまっている。
地域別にみると、それぞれ特色が出ている。私立大の数が国公立大に比べ圧倒的に
多い関東や近畿では、文系より理系で私立大が強い。理系では関東の国公立大は4校、
近畿でも9校しか出てこない。北海道・東北では23校も占めているのとは対照的な
結果だ。
国公立大の強みは、私立大との学費差が広がる理系といわれている。それを考えると、
関東や近畿では私立大の奮闘が目立つ。関東では東京理科大学の4学部がランキングに
入るなど、理工系大学の就職率が高い。近畿では近畿大学、関西大学、立命館大学、
関西学院大学など総合大学の理工系が強さを発揮している。
文系では旧7帝大といわれる北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、
大阪大学、九州大学すべてがランキングに登場する。関東では一橋大学も3学部が
ランキングに入っており、難関大が就職でも強みを発揮している。
ちなみに、ランキングに登場しない早慶は、早稲田大学・政治経済学部83%、慶應
義塾大学・理工学部84・5%が両大学中のトップだった。
就職が厳しいといわれながらも、実績を上げている大学・学部はたくさんある。
上位を見ると、入試のときの難易度とは異なる結果になっている。これこそ、入学後
の就職支援の差とみることもできるのではないだろうか。(※続く)