07年に大西洋のブラジル沖で大規模な海底油田が発見された際、同国のルイス
・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領は神の采配だと言った。それだけではない。
「その神はブラジル人だ」とか、石油資源はブラジルの「未来へのパスポートだ」
などと大はしゃぎ。
その未来への扉が今まさに開こうとしている。ブラジルの国営石油会社ペトロブラスが
いよいよ、トゥピ油田で石油の商用生産を開始するからだ。トゥピ油田はブラジル沖に
ある埋蔵量数十億バレルと言われる油田の1つだ。
海岸線から300キロ以上、水深数千メートルのところにあるこれらの油田は、過去
数十年間で発見された中では最大規模のものだと言われている。うまく利用すれば、
ブラジルに富をもたらしこの国を世界トップクラスの産油国に押し上げる可能性を
秘めている。
だが原油生産が始まる一方で、ブラジルは海底油田の危険性を甘く見ていると業界に
詳しい人々は言う。今年4月にメキシコ湾で起きた海底油田の爆発・原油流出事故を
見れば、その危険性は誰の目にも明らかだというのにだ。
ブラジルが開発を急いでいる海底の石油資源は、2000メートルもの厚さの岩塩層の
下に眠っている。陸地に最も近い油田でもリオデジャネイロの海岸から南東に300
キロも離れており、海の深さは1500メートルを超える。
正確な埋蔵量は誰にも分からないが、試験掘削の結果からブラジル政府は数百億バレル
を見込んでいる。「予測通りにうまく行けば、ブラジルの(石油)生産量は35年までに
今の2倍以上になる」と、米エネルギー省エネルギー情報局のジョナサン・コーガンは
言う。
■世界5大産油国入りも夢じゃない
エネルギー情報局の試算では、油田発見前の06年、ブラジルの1日あたりの石油生産量は
約190万バレルで世界の産油国のベスト10にも入っていなかった。だが25年後には
1日あたり550万バレルに増加し、ブラジルは世界のトップ5に入ると同局では見て
いる。
現在のところ、採掘されているのは比較的浅い場所にある油田だ。だが07年に発見された
油田の多くは水面下7000メートルあたりに位置している。
ここから石油を掘り出すには、さまざまな高度な技術が求められるだろう。海流や凍り
そうな水温や猛烈な水圧、そして泥や砂、石や岩塩と戦って掘り進まなければ石油には
たどり着けない。(※続く)
●07年に発見された海底油田の操業開始を喜ぶルラ大統領(中央)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/2010/10/28/reuters/db_111010.jpg ◎
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2010/10/post-1756.php