経済学者でもない、政府系金融機関の地域振興担当者が書いた本がバカ売れに売れていると
いう。日本政策投資銀行の藻谷浩介氏が書いた『デフレの正体』だ。
藻谷氏の論点は明解だ。日本経済に影響を与える因子は数多あるが、少なくとも戦後一貫
して日本経済に最も大きな影響を与えたファクターは、団塊の世代の動向だった。団塊の世代
と団塊ジュニアの2つの大きな山が明らかにいびつな「人口の波」を形成している。そして、
その波の動きが他のすべての要因を飲み込むほど激しい影響を日本経済に与えてきたこと、
そしてこれからますます激しい影響を与えることを、データが雄弁に語っている。だからこそ
、あらゆる経済対策はまず、その「人口の波」をいかに乗り切るかに主眼を置いたものでなけ
れば、効果は期待できないというものだ。
藻谷氏は日本経済について、実際のデータを読まず、現場を見ない人によって、不正確な
指摘が行われている場合が多いと言う。そもそも診断が間違っているのだから、当然、処方箋
も的外れなものになる。「人を減らして労働生産性を上げる」、「経済成長を達成する」、
「ものづくり技術の革新」など、一見もっともらしい主張は、誤診からくる的外れな処方箋だ
として、藻谷氏はこれらを一蹴する。
誤診の典型として、藻谷氏は莫大な人口と安い労働力を持つ中国の経済成長が、日本の脅威
となっているとする「中国脅威論」をあげる。これもデータを見れば一目瞭然だが、中国の
経済成長によって日本の高級品を求める中国人富裕層人口が増え、日本からの輸出が増えた
ため、日本の対中貿易黒字は増加した。日中の経済関係は、中国が栄えれば栄えるほど、より
日本が儲かる構造になっているのだ。そのため、中国の台頭は恐れることでも妬むべきもの
でもなく、むしろ日本はありとあらゆる手段を使って、中国でモノを売れる平和な関係を維持
し、これからも億単位で増える中国の富裕層が欲しがる、ブランド力を持った商品を作ること
に注力することが賢明だと、藻谷氏は言う。
同じことが、韓国やシンガポールについても言える。また、アメリカ、イギリス、ドイツに
対しても、日本は貿易黒字国である。
しかし、一方で、日本が常に貿易赤字を抱える国がある。それがフランスとイタリアとスイ
スだと言う。日本はブランド力でこれらの国々が持つ超一流ブランドに勝つことができていな
い。つまり日本が目指すべき道は、中国などの新興国の安売り攻勢にコストカットで立ち向
かうのではなく、新興国が富めば富むほどより多くの人に欲しがられる、シャネルやフェラ
ーリやロレックスに匹敵するブランド力のある商品を開発することにある。藻谷氏は日本は
「高級品ばかり売る宝石屋」だと言う。
ソース
http://news.livedoor.com/article/detail/5092571/?p=1 >>1のつづき
予断を持たずにデータを見ることが重要と説く藻谷氏が指摘する日本の大問題が、まさに
これから激動が始まる「人口の波」だ。1945〜50年の5年間に、約1100万人の日本人が生まれ
た。いわゆる「団塊の世代」だ。日本経済の転機は、ほぼ例外なくこの世代の人々の行動に
よって引き起こされてきたことが、データから見て取れる。この世代が就労年齢に達し労働
人口が一気に増えたことで高度経済成長が起き、この世代が家を持つ年齢に達した頃に住宅
バブルが起きる。
そして、昨今の日本の経済停滞も、この人口の波の移動によって引き起こされていると藻谷
氏は説く。02年〜06年の戦後最長の好景気で日本は輸出を大幅に増やし、それによって高齢
富裕層の個人所得は増加した。しかし、老後の不安を抱える高齢者は、積極的な消費は行わ
ない。そのため輸出は増加するが、内需が一向に拡大しない。それが、大半の日本人が景気
拡大の恩恵に浴することができない理由だったと藻谷氏は言う。
消費が落ち込んでいるにもかかわらず過剰な生産が続くと、在庫が増え価格競争が激しく
なる。その結果、商品やサービスの価格は下がる。そう考えると、今起きているのはデフレ
ではなく「ミクロ経済学上の値崩れ」ではないか、これが、藻谷氏の主張する『デフレの正体
』だ。
景気の循環をも飲み込む「人口の波」は、今後も深刻な問題を引き起こし続ける。一番の
問題は、今まさに団塊の世代が就労年齢を過ぎ、労働人口が急激に減ること。そして、それが
近い将来、一斉に要介護年齢に達することだ。団塊世代の大半が要介護年齢に達する頃に、
今度は団塊ジュニア世代が引退の年齢を迎え始める。その2つの大きな山を、それより遙かに
少ない労働人口が支えていかなければならない。これが今日の日本経済が抱える最大の課題
だと、藻谷氏は言う。
そうした試練を乗り越えるための秘策として藻谷氏は、高齢者から若者への所得移転、女性
の就労や経営参加の推進、外国人観光客や短期定住者の招来の3つをあげるが、果たして日本
はそれを実現できるのだろうか。
<以下略>
-以上-