オバマ米政権は、テロ対策として、インターネットの簡易投稿サイト
「ツイッター」や会員制交流サイト「フェースブック」など、多数の
ユーザーが情報を発信し合う「ソーシャルメディア」と呼ばれる
通信分野の本格的な傍受に向け、法制化に乗り出すことになった。
捜査当局による傍受を可能とする技術の導入を関連事業者に義務づける
方針だが、プライバシーの侵害につながるとの懸念も広がっている。
「通信事業者が、裁判所が許可した当局の通信傍受に応じられない事例がある。
多くのプロバイダーが傍受技術の導入を義務づけられていないからだ」
米連邦捜査局(FBI)のモラー長官は十月六日、ワシントンでの講演で、
傍受範囲拡大の意図をにじませた。対象の詳細には触れなかったが、
ツイッターやフェースブックなどが念頭にあるとみられた。
長官は、昨年十二月の米デルタ機爆破未遂事件などにかかわったとみて
米当局が行方を追うイスラム教指導者アンワル・アウラキ師=米国籍=らが
インターネットを通じて世界中に影響を与えていると主張。「テロ戦術と
通信手段の進化が、われわれの仕事を以前に比べ非常に困難にしている」と
指摘した。
長官は同時に、捜査当局が抱える問題として「この分野をカバーする重要な
法律が一九九四年以来変わっていない」と強調。
電話回線の主流がアナログ方式からデジタル方式、携帯電話へと変化した
のに伴い、九四年制定の「捜査支援法」は、捜査当局が必要な場合に傍受を
可能にする装置の設置を電話やブロードバンド・サービスの会社に義務づけたが、
通信手段の発達により同法が対象としない分野が拡大したとの認識だ。
果たして、新進のソーシャルメディアの関係業者はこうした技術導入が可能なのか。
インターネット問題を専門とするパリー・アフタブ弁護士は「政府が言わんと
しているのは『道具(技術)がないなら、われわれが用意するよ』ということ。
誰かを業界から締め出そうとはしていない」とみる。
同時に「FBIは捜査当局(自身)の書簡によって可能な情報入手の範囲を
広げようとしている」ともいう。
現行法は、FBIが裁判所の令状なしでも「国家安全保障書簡」によって
個人通話記録などの提出を関係機関に要求できると規定。FBIは、対象を
ソーシャルメディアに拡大して「迅速な証拠収集」に役立てる狙いとみられる。
市民生活への影響をめぐっては、モラー長官は「プライバシーの権利を含め、
市民的自由への潜在的な影響について常に考慮しなければならない。国家安全
保障と人権擁護との緊張関係が言われるが、問題は両者の対立でなくバランスだ」
と説明。「テロ対策」の強化に理解を求める。
これに対し、インターネット関連分野で法律支援活動を行う「エレクトロニック
・フロンティア財団」(米サンフランシスコ)のレベッカ・ジェシュキ広報担当は
「官僚機構の介入の増大は、インターネット関連技術の発展を妨げる」と反発。
有力な人権団体「全米市民自由連合(ACLU)」のクリス・カラブレス氏も
「プライバシー侵害の増加を招く。あらゆる通信手段に(傍受という)“裏口”
を設けようとしており、犯罪者にも利用される」と警告している。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2010102002000028.html