【出版】”ものづくり”にスポット…工場や建設現場を描いた漫画が静かなブーム [08/30]

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1きのこ記者φ ★
ガテン系などと呼ばれる町工場や建設現場などで働く職業にスポットをあてた漫画が静かなブームだ。
職人さんや技術者の世界からは、形ある物を作り出す喜びも、額に汗する労働の厳しさも伝わってくる。

山の中にある小さな鉄工所「のろ鉄工」は、今日も忙しい。溶接で日焼けややけどをするし、
夏は暑くて大変だけれど、技術を磨き、難しい仕事を成し遂げるやりがいもある……。

そんな溶接工たちの生活を描いて評判なのが、野村宗弘さん(35)の『とろける鉄工所』(講談社)。
野村さんは漫画家を目指して32歳で上京するまで約6年間、実際に、広島県内で産業用機械を作る
溶接工をしていた。
「しんどかったけど、大きなプラモデルを作るみたいな面白さにはまった。いい仕事をしてお客さんに
喜んでもらえる楽しさも、溶接から学びました」

バイト生活から職業訓練校を経て溶接工に転じた「北さん」など、主要人物には作者の体験が反映されている。
溶接の光に引かれ寄ってくるハチに困惑したり、感電を防ごうと苦労したり……リアルなエピソードと、
従業員と家族の日々の哀歓が魅力だ。ほのぼのとした画風だが、「溶接がないと、鉄で物は作れない。
世間の人は気づいてくれないが、実はメジャーで重要な仕事」との思いも込める。

一方、タカ『ブルーカラー・ブルース』(宙出版)は、現実社会の厳しさを問いかける問題作。
大学を卒業し、なんとなく工事会社に就職した貴仁。が、職人に指示し工事現場を仕切る現場監督の仕事は
彼にはシビア。思い切って会社を辞めてみたものの、再就職は難航し、孤独感にさいなまれていく……。

27歳の新鋭が実体験をもとに描いた作品で、就職難や派遣労働の不安定さが取りざたされる時代を
生きる若者の心情が切ないほど。担当編集者の中江陽奈さんは、「労働の意味や誇りが見いだしにくく
なっている状況に問題提起したかった。同じような境遇の人に共感してもらえるはず」という。

中小企業でゲーム機などを作った元エンジニアの経験を生かしているのが、見ル野栄司さん。
現場ルポを中心としたヒット作『シブすぎ技術に男泣き!』(中経出版)に続く『工場虫』(同)は、
不況の波にのみ込まれた会社を救うため、「自動手ツボ押し装置」、「電動ゆりかご機」など画期的?な
新製品開発に尽力する男たちの物語だ。仕事で「革命を起こしてやる」と燃える主人公は、多くの技術者の
思いを代弁する。

さらに少女マンガでも、工務店の女性棟梁(とうりょう)が奮闘する塩森恵子『純情娘 ガテン系』(集英社)の
ような作品も。IT産業のような華やかさはなくても、こつこつといいものを作ろうとする姿を見直すことで、
ニッポン再生の道も見えてくるのでは。

http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20100830bk01.htm