石油業界に政府からの再編圧力がかかっている。国内の石油会社は少子高齢化などで
縮小するガソリン需要と、新興国との価格競争によって厳しい環境下にある。展望の
開けない業界に対して経済産業省は7月、石油各社に安価な重質油の利用を促すための
規制の基準を公表した。重質油を処理する設備の割合が低いコスモ石油や東燃ゼネラル
石油は投資して設備を増強するか、既存の設備を廃棄して精製能力を下げて見かけの
装備率を向上させることが求められる。両社の動向次第によっては業界再編へと一気に
なだれこむかもしれない。
■「売るなに等しい」
「石油を売ってメシを食ってきたわれわれに対し、石油を売るなと通告しているような
もの。業態転換が難しいだけに脱落者も出てくる」
経産省の基準公表から1カ月たった今月初め、ある石油元売り会社首脳はこう述べ、
顔をこわばらせた。
JXホールディングス、出光興産、コスモの大手3社の2010年4〜6月期連結
決算は、主力の石油精製事業で減産や精製能力の削減を進めたことが寄与し、そろって
経常黒字を確保した。それでも、国内の設備過剰が根本的に解消されたわけではない。
経産省が石油各社に課したのは「重質油分解装置」の装備率を上げること。製油全体の
処理能力に対して、重質油を分解する装置の能力を一定以上の比率で備えることを義務
づけた。軽質油に比べて安い重質油からガソリンを生産する体制を整備することで、
国全体のエネルギーコスト低減を目指す。さらに重質油の利用増は、石油製品の国際
競争力強化にもつながる。経産省は、日本全体の装備率を現状の10%から13年度
までに13%に引き上げることを目標にしている。装備率が低いほど高い改善目標が
設定された。
石油各社は基準をクリアするために、分解装置を新・増設するか、全体の精製能力を
削減する必要がある。同装置の新設には1000億円前後かかるという。石油連盟の
天坊昭彦会長は「(内需の縮小で)減産して供給能力の適正化に努めているとき。
投資しても採算がとれるマーケットではない」と重質油分解装置の新・増設は業界を
さらに疲弊させると懸念する。
■装備率10%未満
石油各社は明らかにしていないがコスモや米エクソンモービル傘下の東燃ゼネラルは
装備率が10%未満とみられ、基準を満たすためには複数の製油所閉鎖などの設備削減
が避けられない見通しだ。しかし、閉鎖すれば製品供給において支障をきたす地域が
でてくる可能性が高い。「全国規模で展開する石油元売りとして存続するためには、
ライバル他社と手を組まざるを得ない状況になるのは必至だ」(石油元売り大手幹部)
一方、アジア各国・地域では、重質油を処理できる製油所が増えている。資源エネル
ギー庁の試算では、装備率は中国が35%、シンガポールが22%。アジア主要国
・地域平均でも19%で、10%の日本は大きく後れを取る。
過剰設備と新興国との競争に苦しむ石油業界の再編に向け国が重い腰をあげた格好だ。
◎ソース
http://www.sankeibiz.jp/business/news/100812/bsc1008120501008-n1.htm