シャープが欧州に複数の太陽光発電所を建設する計画を発表し、業界関係者の話題をさらっている。
太陽電池生産で“ソーラーカンパニー”を掲げるシャープによる電力ビジネスへの挑戦。そこには、技術流出を
おそれ、海外生産に出遅れた液晶テレビの二の舞にはならないという決意が見え隠れする。
シャープの発電事業は欧州第2位の大手電力会社エネル(イタリア)の100%子会社「エネル・グリーン
パワー(EGP)」社と、合弁で行う。具体的にはイタリア、フランス、スペイン、ギリシャなどを候補に、
2016年末までに計50万キロワット規模の発電所を複数建設する計画で、それぞれが完成すれば、
全体で約15万世帯に電力を供給できる規模だ。
太陽光発電は、もともと日本が世界に先駆けて開発し、生産、発電量ともに世界ナンバーワンだった。
シャープは太陽電池生産で世界首位に君臨し、上位には京セラ、三洋電機といった日本メーカーの
名前が連ねていた。
しかし、ドイツが太陽光発電で生み出された電力を買い取る「固定価格買い取り制度(FIT制度)」を
導入した2000年ころから状況が一変する。スペイン、フランス、イタリアといった欧州各国もFIT制度を
相次ぎ導入し、欧州で太陽光発電の普及が一気に進んだ。
一方で、日本は05年度に補助金制度を打ち切ったことが影響し、シャープは07年に1位から転落。
ドイツのQセルズ、米のファーストソーラー、中国のサンテックなどが躍進し、シャープは世界4位にまで
落ち込んでおり、韓国、台湾勢も力をつけてきている。
そこで、起死回生を狙ってシャープが打ち出したのが、今回の発電事業だ。計画によると、地中海沿岸を
中心に複数の太陽光発電所を建設し、太陽電池パネルを販売するだけでなく、技術・運用面なども提供していく。
ロイヤルティーによって収入を安定的に得るという太陽電池事業の新たなビジネスモデルの確立を目指す。
日本より広大な土地を持ち、太陽の光がさんさんと降り注ぐ海外のほうが、将来的にはマーケットとしても、
生産拠点としても重要になってくるのは間違いない。また、海外のライバルメーカーとの価格競争になれば、
日本で生産し、輸出するやり方では、勝ち目はない。
シャープは、発電所の建設に先立ち、EGP社らと合弁で、伊シチリア島で太陽電池の生産を始める。現在、
シャープが「セル」と呼ばれる太陽電池部品を生産するのは、奈良県葛城市の葛城工場(3月には堺市の
新工場稼働予定)のみ。
これまで技術流出を防ぐため、生産を国内に限定してきた液晶テレビパネルの事業戦略を考えれば、
今回の決断は大胆な転換といえる。そこには世界首位奪還への焦りと、国内にこだわりすぎたため、後発の
韓国メーカーらの後塵(こうじん)を拝す結果となった液晶テレビ事業の二の舞を繰り返さないという反省が
大きくある。
数年以内には太陽光による発電コストが、火力発電のコストを下回るのは確実で、太陽光発電時代が
本格的に到来するといわれている。電力会社が一手に担ってきたインフラビジネスの一画に、電機メーカーが
どう食い込むのか。欧州でのシャープの挑戦を、業界関係者かたずをのんで見守っている。
▽ソース:Sankei Biz (2010/01/31)
http://www.sankeibiz.jp/business/news/100131/bsb1001310701000-n1.htm