鳩山政権は、主要国・地域との貿易自由化などを目指す経済連携協定(EPA)を
促進するための議論を本格化させる。経済産業省などは新政権の基本方針となる
「EPA戦略」を策定して、米国や欧州連合(EU)との交渉方針も盛り込みたい
意向だ。ただ、国内農業への影響を懸念する農林水産省は慎重な姿勢で、曲折も
予想される。
「できるだけ早くEPA戦略をまとめたい」。経産省の政務三役の一人は、意欲的に
語る。外務省幹部は、年明けの通常国会前から議論を始め、来春に予定される豪州との
次回EPA交渉までに戦略を策定するプランを抱く。
両省が戦略づくりを急ぐのは、停滞感が漂う豪州や韓国、インドとの交渉で、進展の
糸口をつかみたいからだ。鳩山由紀夫首相は29日、シン首相と会談したが、日印
EPAは「交渉を加速する」ことで一致したにとどまった。
新政権としての交渉スタンスを確立して弾みをつけ、産業界からの要望が強いものの
政府間の正式交渉に至っていない米国やEUとの交渉入りをにらんだ中期的な方針も
検討する考えだ。
政府内の一部が「戦略づくり」に前のめりになるのは、同じ貿易立国の韓国に後れを
取っているからだ。韓国は思い切った農業分野の市場開放を決断し、EPAの柱となる
自由貿易協定(FTA)で、米、EUと合意にこぎ着けた。一方、日本は昨年12月に
東南アジア諸国連合(ASEAN)とのEPAが発効した後では、ペルーとの交渉が
始まったことぐらいしか目だった成果は出ていない。日本の農業の市場開放で折り合える
「交渉しやすい国・地域」が既になくなってしまっているからだ。
岡田克也外相は10月下旬、外務、経産、農水、財務の4閣僚がEPAの促進策などを
検討する委員会の設置を提案。11、12月に相次ぎ会合を開き、政治主導で現状打破を
模索する。
ただし、「議論がまとまるかどうかは、農水省次第だ」(経産省幹部)との声は根強い。
民主党は8月の総選挙で示したマニフェスト(政権公約)で当初は、「日米FTAを
締結」と記したが、後に「交渉を促進」に変更した。米国産の安い農畜産物が大量に
入り込みダメージを受けるとして国内農家の反発にあったからだ。来夏には参院選が
控えており、農家の票を気にして農業分野の市場開放につながる戦略は描ききれない
との指摘もある。
世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)も難航しているだけに、
EPA交渉の今後に注目が集まる。どのように議論を深め、早期に戦略をまとめることが
できるか。鳩山政権の「本気度」が問われる場面が早晩来そうだ。
◎ソース
http://www.asahi.com/business/update/1230/TKY200912300295.html