◆遠くにかすんで……
「100年に1度」とやらの危機に瀕する日本経済。だが、政府は景気判断を「上方修正」し、
「最悪期は脱した」との声も聞かれる。景気に薄日の差す気配が見えてきたとも言われるが……。
【中山裕司】
ぎょっとして、警備員の男性は振り向いた。「立ったまま並んでいるのは、かわいそうでしょ!
高齢者が多いんだから」。女性が警備員をにらみながら、金切り声で叫んでいた。女性に賛同の
声を上げる人もなく、ひんやりとした空気が一瞬流れた。
5月下旬の平日、東京都江東区の区文化センター。「プレミアム商品券」の発売が始まった
午前10時には、高齢者を中心に約80人の長い行列ができていた。消費意欲がかき立てられて
いるとすれば、これも薄日の兆しなのか。定額給付金に合わせて全国1045市区町村が
プレミア付き商品券を売り出した(予定も含む)。
年金で生活する主婦(71)は8万円分を購入した。「食品などに使います。生活の足しになるので
助かります」。会社が休みで長女(4)を連れて訪れた男性会社員(39)は「長男も最近生まれ
たのに、新年度の4月は給与のベースアップはなかったから、ありがたい。生活費にします」と
5万円分を購入した。東陽駅前商店会の会長、佐藤知男さん(60)が経営する居酒屋は、昨秋の
金融危機から売り上げは1割落ちた。「プレミアム商品券を使ってくれるのはうれしいけど、景気が
好転するとは限らない。経営は厳しいよ」と嘆いた。
江東区では準備した6万セットのうち売れたのは2万4630セット(41%)にとどまった。現在も
販売日を設けずに市役所などで販売中だ。売れ残った要因は、江東区が地元振興のため取扱店を大型
スーパーなどを除いて商店街に絞ったうえ、商品の値下げを続ける大型スーパーに対抗できなかった
ためという。
政府が肝いりで進めているエコポイントの周辺はどうか。大型家電量販店がしのぎを削る東京・池袋から
数駅離れた小さな商店街を訪ねた。夫婦で家電販売店を営む女性は「エコポイントを家電量販店で買った
時につく通常のポイントと混同している人や、大規模な家電量販店でしか取り扱っていないと思っている
人もいる。でも、年配の人などがポイントの仕組みを聞いてくるようになった。関心は高まっている」と
話した。100メートルほど離れた別の家電販売店。店頭のテレビなどには、メーカーから送られてきた
販売促進用の「エコポイント」のシールが張られている。「さっぱり売れないね。お客さんにエアコンを
買い替えませんか?って言っても、『まだまだ使える』って断られた。そのエアコンは16年も前のものだよ。
買い替えが進むなんて私の店ではないね」。息子が経営する電器店で店番をしていた女性だ。「麻生(太郎
首相)さんもひどいね。エコポイントなんてまだ使い道も決まっていないのに制度だけ始めるなんて」。
定額給付金も「あんなのスズメの涙」と切り捨てた。どうも薄日が差している気がしない。【続く】
毎日新聞
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090605dde012040047000c.html