雇用改革〜「雇用の質」を改善せよ〜
日本経済の目覚ましいカムバックの過程で後回しにされてきた問題がある。
雇用・労働問題だ。私たちは、今こそその問題に官民あげて努力すべき時が
来たという考えで本書を執筆した。労働分配率をはじめとする各種の経済
データは、成長の成果が労働側に十分均てんされず、国民の多くにとって
生活は向上していないことを示している。とくに若者の場合、増えない
賃金の下で長時間残業が恒常化している。これでは少子化はひどくなる
ばかりだ。
本書では日本の賃金と生産性、単位労働コスト(ユニット・レーバー・コスト、ULC)
を国際比較している。先進国のなかで日本だけが賃金が継続的に減少している。
このことについて本書では、日本で一般に言われていることが誤りであることを
証明している。たとえば、グローバリゼーションが進み日本は中国やアジアの
低賃金国と競争をしている、その結果日本の賃金は上がらないのはやむをえない、
といった議論だ。もしそうならアメリカやヨーロッパの賃金も上がらないはずだが、
そうはなっていない。10年も続いているデフレの原因も一般に考えられているような
金融的な原因ではない。マイナスのULCこそが真犯人なのだ。だから金融緩和政策
を10年近く続けてもデフレは解消しない。デフレが継続したまま企業収益が大幅改善する
という想像外のことが起こったのも、賃金が生産性を下回ったからだ。加えて低金利政策
が異常な円安をもたらし、価値ある日本人の労働をいっそう安売りすることとなった。
これもバブル崩壊で失われた企業資産を回復するための、やむをえないコストであったと
考えられる。
しかしいまやバブルの後遺症から脱出した日本経済はよりバランスのとれた
成長を追及すべきである。賃金の上昇幅を生産性と同一の水準まで引き
上げる余地が生じている。それにより極端な輸出依存の成長から内需中心の
成長へと軸足を移すときが来た。成長の果実を少子化対策や若者の雇用の
質の改善に振り向けることができるはずである。今年の国会では、
労働ビッグバンを実現するための労働関連法のうち三法案が成立したが、
本格的な労働市場改革はようやく着手されたばかりだ。雇用の質を改善
するための絶好の機会を最大限利用して、雇用の質を改善する努力を
官民そろって強化すべきである。(根津利三郎)
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