この15カ月間、FRB(連邦準備制度理事会)は財務省の金融規制の担当官の支援を得ながら、金融危機の影響を
最小限に抑えようと努力してきた。とりわけ金融危機が深刻な恐慌に発展するのを懸命に阻止しようと努めてきた。
恐慌を防ぐことに加え、FRBはそのほかにも三つの副次的な目的を設定していた。第一に経済活動をできるだけ
民間部門に委ねること、すなわち市場への政府の介入をできるだけ回避することであった。政府ではなく消費者が
欲するものを生産することが経済活動だからだ。第二は、ウォール街の大手金融機関の経営者が自ら作り出し、
危機を招いてしまったシステミックリスクを利用して利益を得ることがないようにすることであった。第三は、住宅保有者や
個人投資家が必要以上の損失を被らないようにすることであった。なぜなら、そうした人々が犯した唯一の“罪”は、
適切な分散投資が行われている世界では決して存在しないような、悪質なリスクを引き受けてしまったことだけだからである。
現在までのところ、FRBと財務省にゲームの勝ち目はなさそうに思われる。もし恐慌が避けられるとすれば、
それは別の政策手段と別の権限を持つ別の政府機関がとった政策の結果であって、FRBと財務省の政策の成果ではないからだ。
FRBと財務省が危機の封じ込めに失敗したとすれば、その理由は経済的な意思決定を民間に委ね、ウォール街の金融機関の
経営者を制御するという副次的な目標に過剰に固執したからである。FRBと財務省がこの二つの目標に適切なウエートを
置いていたなら、現在、これほどの混乱には陥らず、国際的な恐慌の危険性ははるかに遠のいていたのではないかと思う。
金融機関の経営者が危機から利益を得るのを阻止するという願いは、FRBと財務省が監督や監視、保証をつけずに
リーマン・ブラザーズを倒産させたことに端的に反映している。その決定の背後には、過去の危機の際に大企業を倒産させることが
できなかったため、株主が非常に大きな損失を被ったという苦い思いがあった。ベアー・スターンズ、AIG、ファニーメイ、フレディマックの
株主は実質的に企業の所有者の立場にあり、その株式資産は1セントに至るまで没収されてしまった。
FRBと財務省が犯した二つの過ち
一方で、債券保有者や取引相手企業は全額が弁済された。FRBと財務省は、2007年後半と08年前半の経験から、
政府が大手金融機関の債務と取引のすべてを保証すると、人々が解釈することを恐れていた。FRBと財務省は、
それは健全なことではないと信じていたのである。
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Brad Delong
1960年生まれ。ハーバード大学で経済学博士号を取得。93〜95年に財務副次官補として93年度予算、GATTウルグアイ・ラウンド、
医療制度改革に携わった。97年から現職。政治・経済のブログ「Brad Delong Semi−Daily Journal」でも有名。
>>2-に続く
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