ディーゼル機関に頼るしかなかった商船の分野で、電力を使った船舶が脚光を浴びつつある。
「環境にやさしく経済的」とされる電気推進船(スーパーエコシップ=SES)だ。
船上で電気を供給する一次エネルギーにディーゼル機関を使うものの、船そのものの動力源は
あくまで電気。船の推進力がまかなえる電力さえ確保できれば、「太陽光発電船なども物理的には
可能」と船舶関係者はみている。
石油タンカーなどを所有する内航海運会社「商運海運」(石澤重男社長、大阪市)は10月下旬、
海上輸送分野で環境保全に貢献したとして近畿運輸局から表彰を受けた。表彰は、今年から同局が
設けた制度で、動力源をディーゼルから電力に置き換えた船を導入したことが評価された。
関係者によると、同社が昨年11月に導入した白油タンカー「なでしこ丸」(総トン数749t)はディーゼル
エンジンを持たない。その代わりに発電機などからなる発電ユニットにA重油を供給することで発電させ、
モーターに電気を流すことでプロペラを回す仕組みだ。同型の在来船と比較して、約20%の省エネ効果が
あるとされている。
就航から丸1年が経過して、省エネ効果を検証中だ。同社の嶋崎博夫・海工務次長によると、1時間
当たりの燃料消費は、なでしこ丸で約160L。製油所のある三重県四日市市から神戸市までの200数十
マイル(約400km)を運航させると、約2500LのA重油を消費する。在来船なら3200LのC 重油を消費する
ことになるという。
もっとも、2割の燃費効果はあるものの、A重油とC重油の価格差で経費上のメリットは薄まってしまう。
おまけに749総t級のタンカーで約十億円といわれる建造費は電気推進船の場合、2割も費用が跳ね
上がる。ではなぜ、電気推進船が生まれたのか。
02年、スペイン沖で発生した油タンカーの大規模油流出事故を契機に03年、国際海事機関で油の流出を
防止できる二重船殻(ダブルハル)構造のタンカーを促進する条約が採択された。08年以降はシングル
ハルタンカーでの重質油輸送が禁止されている。
その影響は、なでしこ丸クラスのタンカーに顕著だった。船の容積を表す総トン数が749のクラスの
タンカーは2000kL積載できるのが標準で、それをもとに運賃も決まっていた。しかし、ダブルハルにする
ことで749の確保は難しくなり、2000kL積むには船を大型化する必要が生じる。白油タンカーはダブルハル
の義務からはまだ免れているものの、荷主の石油会社などは万一に備える社会的義務がある。
コスト増と社会的責任。この連立方程式に解を見出したのが電気推進船だった。大型のエンジンを積む
スペースに発電ユニットを置いても、容積は最小限ですむからだ。これにより船尾が受ける水の抵抗を
最小限化できるため、燃費の効率につながったのだ。
国交省によると電気推進船は現在、国内に6隻が供用されている。国交省や「鉄道・運輸機構」が建造費
に補助を出すことで導入を促進しているが、これは09年度までの措置。同社の石澤社長は環境保全の
授賞式で「制度の継続を期待する」と述べた。
導入状況について国交省は「電気推進船は国内だけの技術。15年をめどとする売船で外国へ売る時、
値がつくか心配する心理もあるのではないか」と話している。(西口訓生)
▽ソース:物流Weekly (2008/11/19)
http://www.weekly-net.co.jp/tnews/logi/post-3244.php