農業に漁業に商業、そして従業員たち??。山の旅館はふもとの人たちに支えられてきた。
宮城県栗原市の山間部に被害が集中した岩手・宮城内陸地震は、そんなつながりを断ち切った。
被災で、栗駒山に立ち並ぶ旅館の7割が休業。影響は、取引のある人たちの暮らしにも及んでいる。
秋田県境に近い山あいに位置し、開湯1100年の秘湯として人気が高い同市花山地区の温湯
(ぬるゆ)温泉。「佐藤旅館」は自噴していた大浴場の湯が地震後、出なくなった。
旅館に続く国道はがけ崩れで通行規制されている。経営者の佐藤研一さんは避難生活を
続けながら、お盆までの予約客約400人に断りの電話をかけた。
食材の納入元など取引先は20軒に上る。銀ジャケ甘露煮、山ブドウジャム、梅ジャム……。
仕入れた特産品を返品したいが取引先も被災している。「お湯は何とかなると思うが、それでも
営業再開の見通しがつかないのはつらい」
佐藤旅館から約10キロ山を下ったところにある「ストアー もいずみ」は50年間、佐藤旅館に
野菜や食材を納めてきた。同旅館のほか山間部の宿泊施設3軒で売り上げの3割を占めていたが、
すべて休業。売り上げは月100万円余り減る見込みだ。同店の荒木寛充さん(60)は「厳しいけれど、
頑張るしかない」。
宿の食事に欠かせないのが地元名産のイワナ。佐藤旅館はこれまで花山地区の養殖業の男性
(55)から仕入れてきた。この男性も市内の宿泊施設や飲食店に出荷の9割を頼っていたが、
販路を変更せざるをえなくなったという。
栗原市によると、花山地区と栗駒地区の山間部にある18の旅館・民宿のうち12軒が休業。
市の第三セクターが運営する3施設も一時休業に追い込まれた。
この3施設に魚介類などを卸していたのが栗駒地区の「岩ケ崎魚市場」だ。冷凍倉庫には出荷を
予定していた段ボール箱が積まれたままになっている。年間売り上げ約7000万円のうち3施設への
出荷額は6割強を占める。渡辺綱雄社長(65)は「街に魚屋がなくなってからは栗駒山の観光に
頼ってきた。事業をやめるつもりはないが……」と途方に暮れる。
3施設の従業員110人も職場を奪われた。「いこいの村栗駒」に30年間勤める鈴木和夫さん(58)は
自衛隊の待機施設で市職員に代わって宿直勤務についている。「いつか営業再開できれば。
でも、それまでに定年かな」
市のまとめでは施設などの被害総額は214億円。民間はホテル・旅館の被害が12億円、農業が
5億3000万円、漁業関係が1億6000万円だった。
観光シーズンはこれからだが、以前の姿に戻るには2、3年かかるとも言われる。
「持ちつ持たれつの文化も地震と一緒に崩れてしまった。復興まで時間はかかるけど、
持ちこたえないと」。花山地区の酒店経営、伊藤順一さん(59)は、ぽつりと漏らした。
▽News Source asahi.com 2008年6月29日18時27分
http://www.asahi.com/national/update/0628/TKY200806280239.html http://www2.asahi.com/national/update/0629/images/TKY200806280277.jpg 出荷先の宿泊施設が休業になり、食品が入った段ボールが積まれたままの「岩ケ崎魚市場」の冷凍倉庫
=宮城県栗原市
http://www2.asahi.com/national/update/0629/images/TKY200806280278.jpg 地震のため営業休止が続く「佐藤旅館」=27日、宮城県栗原市花山、戸村登撮影