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京都大学と日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は10日、大規模マルチエージェント
交通シミュレーションシステムを共同開発したと発表した。
マルチエージェントシミュレーションシステムとは、コンピュータ上に仮想的な人間社会を構築し、
現実社会をシミュレーションするシステム。100万人都市の交通渋滞をシミュレーションする場合、
人間と同数のエージェントを置いた仮想世界を作り現実の人間社会をシミュレートするため、
従来の統計データを元にしたマクロシミュレーションとは異なり、広域をカバーした
ミクロシミュレーションが可能となる。
従来は大規模並列コンピュータを用いなければ計算できなかったが、コンピューティングパワーが
増したことで実現が可能となった。
この手法を活用することで、交通渋滞のシミュレーションといった課題だけでなく、高齢者が
増加した社会における道路状況のシミュレーションといった、従来は
シミュレーションが難しかった課題に対処できる。
マルチエージェントシミュレーションの可能性と課題について、京都大学大学院情報学研究科の
石田亨教授は次のように説明する。
「大規模シミュレーションシステムの活用は、弾道表、流体などをシミュレートする物理系から
スタートし、科学系、生物系に広がり、最近になって人間系でも利用されるようになった。
人間系シミュレーションは、避難誘導や交通流などに活用することができるが、行動をモデル化
することに多くの研究課題を残す。
避難誘導のシミュレーションについては、パニック時の避難行動のモデル化が難しく、実用化するには
まだ難しい。運転行動のモデリングにおいても、一般道での運転のモデル化についてはまだまだ課題は
あるものの、それでも避難誘導などに比べれば取り組みはしやすい。今回の研究では、獲得した運
転行動モデルによって、ミクロからマクロまでシームレスに交通シミュレーションを実施することを
目標として取り組んだ」。
続きます。ソースは
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0611/ibm.htm -続きです-
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一方、日本IBMの東京基礎研究所では、大規模マルチエージェントシミュレーション環境
「IBM Zonal Agent-based Simulation Environment」と大規模マルチエージェント交通シミュレータ
「IBM Mega Traffic Simulator」を開発した。
「従来のマクロスコピックは、都市全体を扱うことはできるものの、車一台の行動を見ていくことは
できなかった。また、ミクロスコピックは車一台一台の状況をシミュレーションすることはできた
ものの、対象範囲が狭くなるという難点があった。IBM Mega Traffic Simulatorは、広い範囲を対象と
しながら車、一台ごとを追っていくことができる。その結果、ロードプライシングを導入した際の
交通予測、CO2排出量を抑制するための制限速度とその際の都市全体のCO2排出量など、さまざまな
角度からの予測に利用することが可能となった」(日本IBM 東京基礎研究所・加藤整氏)。
今回の共同研究では、京都大学大学院が仮想都市空間シミュレータ「Free Walk」と、その際に必要な
シナリオ記述言語「Q」を開発し、個々の参加者の行動シナリオを学習する技術を開発し、
大規模シミュレーションの実施と、運転行動モデルを開発。日本IBMの東京基礎研究所が
マルチエージェントシミュレーションの基盤技術「Caribbean」を開発し、携帯電話への
自動メール配信システムなど、実ビジネスへの適用の検討などを担当。
IBMでは、学術研究者がCaribbeanを試用できるように提供しており、京都大学がこれを試したところ
利用は可能であると判断。今回の共同研究に結びついたという。
京都大学と日本IBMは、2005年から3年間、総務省戦略的情報通信研究開発推進制度委託事業として
研究に取り組み、京都市全域における81.1万台の大規模交通シミュレーション、京都市社会実験時の
交通シミュレーションとして活用した。
京都市全域の大規模交通シミュレーションでは、道路数32,654本、交差点数22,782点、
最大同時走行車両数81.1万台、京都市全域を対象に、IBMのサーバー「xSeries 335」
1台でシミュレーションを実施したところ、おおよそ30時間かけて計算した。
ただし、この研究成果を実ビジネスで活用するためには、まだまだ課題が残る。
例えば、運転行動モデルを獲得する際には、被験者にドライビングシミュレーションを利用してもらい、
その際のログデータを分析し、被験者へのインタビューを行なって操作ルールの記述、観測事象の
説明などを行なった上で、個々の人の運転行動モデルを作る必要がある。
「被験者は、ドライビングシミュレーションの体験、その後のインタビューと大きな負荷がかかる。
本来、京都市の人口分布にあわせた男女、年齢などのデータを取得しなければならないが、それほど
多くのデータを取得できないというのが現状。この問題解決のために、行動モデル取得システムを
開発している」(京都大学・石田教授)。
-以上です-
□日本アイ・ビー・エムのホームページ
http://www.ibm.co.jp/ □ニュースリリース
http://www.ibm.com/jp/press/2008/06/1001.html □京都大学のホームページ
http://www.kyoto-u.ac.jp/ 依頼を受けてたてました。