鉄の価格交渉が白熱している。鉄鋼会社は造船会社に対し、鋼材の4割近い
値上げを打診した。理由は、鉄鋼の原料にする鉄鉱石や石炭の急騰だ。
造船側は反発するが、鋼材は中国や韓国などからも引く手あまた。
交渉は「売り手優位」で進んでいるようだ。
鋼材は、これまで1トンあたり平均約8万円で取引されていた。鉄鋼会社は昨秋ご
ろから大口顧客に向けて、08年度分の価格について大幅値上げの意向をにじませ、
年明けにいったんは1トンあたり2万円程度の値上げを打診。
その後、石炭の急騰を受け、4月半ばに1トン約3万円に値上げ幅を積み増した。
「値上げをのまないなら安定供給は約束できない、と鉄鋼大手に言われた。
しかし、3万円なんて問題外だし、2万円ものめない」。造船大手の三菱重工首脳は、
追いつめられた表情だ。
国内の造船18社が使う鋼材は年間440万トン。1トンあたり2万円の値上げでも、
880億円、負担が増える計算だ。08年3月期の18社合計の営業利益の見込み額を上回ってしまう。
■新興国で需要増
攻勢を強める鉄鋼会社も、1カ月ほど前には、同じように嘆いていた。「3倍値上げを
のまないなら石炭の供給をとめる、と資源大手に言われた。どうしようもない」(新日鉄首脳)。
結局、のまざるをえなかった原料のコスト増は鉄鉱石なども含め計3兆円に達する見込みだ。
鋼材価格を上げなければ、自らの利益が吹き飛ぶという。造船向けは国内製造業向け
普通鋼材の2割を占め、交渉の行方は、並行して進む自動車業界との交渉にも影響しかねない。
買い手より売り手の立場が強いのは、石炭や鉄鉱石、そして鋼材も、発展著しい
新興国からの需要が強いからだ。売り手は、より高く製品を買ってくれる相手を選べる。
石炭の価格交渉では、新日鉄やJFEスチールが3倍値上げをのむ前に、
世界最大手アルセロール・ミッタルや韓国ポスコが同じ幅の値上げを受け入れていた。
鋼材の交渉も構図は同じ。「(規模で抜かれた)韓国や中国の造船メーカーに鋼材交渉の
主導権も奪われた」と、ある造船大手の首脳は嘆く。
■船価に転嫁困難
造船業界には、さらに「受注期間が長い」という不利な条件もある。造船会社は、
古いものでは4年前の受注を抱えるが、船の販売価格は受注時点で決定済み。
その後に鋼材価格が上がっても、今さら船価に転嫁できない。鋼材の値上げの負担増は
自分でかぶることになるのだ。
造船各社は、船価の上昇で08年3月期にようやく営業黒字を回復したところ。
日本造船工業会の田崎雅元会長(川崎重工業会長)は「長いトンネルから脱したばかり。
値上げは先延ばししてほしい」と主張。一部のメーカーが割安な中国製鋼材を使う量を
増やすなど、日本の鉄鋼会社への牽制(けん・せい)の動きもみせる。
ただ、鋼材不足も悩みの種だ。鋼材需要の切迫で、昨年秋ごろから平均2週間ほどの
納入遅れが発生、作業が慢性的に遅れている。船の納期に遅れれば、造船会社は船主に
違約金を払わなければならない。業界からは「ある程度の値上げをのんでも、鋼材の
安定調達を優先せざるを得ない」という弱気の声も漏れている。
引用元
http://www.asahi.com/business/update/0508/TKY200805070231.html