プロレタリア文学を代表する小林多喜二(1903〜1933)の「蟹工船(かにこうせん)
・党生活者」(新潮文庫)が、今年に入って“古典”としては異例の2万7000部を増刷、
例年の5倍の勢いで売れている。
過酷な労働の現場を描く昭和初期の名作が、「ワーキングプア」が社会問題となる平成の若者を
中心に読まれている。
「蟹工船」は世界大恐慌のきっかけとなったニューヨーク株式市場の大暴落「暗黒の木曜日」が
起きた1929年(昭和4年)に発表された小説。オホーツク海でカニをとり、缶詰に加工する
船を舞台に、非人間的な労働を強いられる人々の暗たんたる生活と闘争をリアルに描いている。
文庫は1953年に初版が刊行され、今年に入って110万部を突破。丸善丸の内本店など
大手書店では「現代の『ワーキングプア』にも重なる過酷な労働環境を描いた名作が
平成の『格差社会』に大復活!!」などと書かれた店頭広告を立て、平積みしている。
多喜二没後75年の今年は、多喜二の母校・小樽商科大学などが主催した「蟹工船」読書エッセー
コンテストが開催された。準大賞を受賞した派遣社員の狗又(いぬまた)ユミカさん(34)は、
「『蟹工船』で登場する労働者たちは、(中略)私の兄弟たちがここにいるではないかと錯覚する
ほどに親しみ深い」と、自らの立場を重ね合わせる。特別奨励賞を受けた竹中聡宏(としひろ)さん
(20)は「現代の日本では、蟹工船の労働者が死んでいった数以上の人々が(中略)生活難に
追い込まれている」「『蟹工船』を読め。それは、現代だ」と書いている。
また一昨年、漫画版「蟹工船」が出版され、文芸誌「すばる」が昨年7月号で特集「プロレタリア
文学の逆襲」を組むなど、再評価の機運が盛り上がっている。
新潮社によると、購読層は10代後半から40代後半までの働き盛りの年代が8割近く。
同文庫編集部は「一時期は“消えていた”作品なのに」と驚きつつ、「ここまで売れるのは、
今の若い人たちに新しいものとして受け入れられているのでは」と話している。
◎ソース 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20080502-OYT1T00457.htm