【書評】ケチになるのも仕方ない? 『牛丼一杯の儲けは9円』 坂口孝則著(評:朝山実)[08/03/19]

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2やるっきゃ騎士φ ★
-続きです-
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しかし、どっこい企業の心臓部を担うのは自分たちなのだという自負が、著者たちバイヤーには
ある。モノが売れない時代になれば尚のこと。だからこそ、本書も生まれた。

バイヤーは日夜どんな工夫をしているのか。熾烈な値引き合戦を展開する家電量販店を例に
あげている。

販売価格30万円の大型テレビの卸価格を仮に23万円とする。人件費・光熱費などの諸経費が
販売価格の20%で6万円。残った1万円が利益となる。30万円に、ヤマダ電機やビックカメラの
2007年3月期決算の営業利益率を掛け合わせると、ほぼ1万円近くの数字になる。

〈どうやら、家電量販店の店員と交渉するときによく出てくる「これがギリギリですよ」という
逃げ口上はあながち嘘ではない気がしてきます。(中略)では、家電量販店はどのようにして、
お客さんから取れない状況で利益を増やそうとしているのでしょうか?〉

答えは、もちろん仕入れにある。ひとつは、仕入れ先に値引きさせる。そのための交渉術が
バイヤーの腕の見せ所であろうが、伝聞止まりで、突っ込んだ手練手管のやりとりまでは
明かされていないのはすこし残念なところだ。

かわりに、こんな裏技が。

〈それは、500台しか売れないとわかっていても、値引きしてくれるなら1000台仕入れるのです〉

500台なら20万円のテレビを、1000台まとめて仕入れることで、18万円にする。では、
余分の500台はどうするか?

19万円の値を付けて、横流しする。

説明を聞いてみると、日ごろ不思議に思っていた、ディスカウント店に新品の電化製品が並ぶ
事情にも納得できた。ほかにも、涙ぐましい、仕入れ値を下げるための奮戦ぶりが窺える。

原価計算にこだわる余り「不正」スレスレにまで知恵を働かすこともある。バイヤーではないが、
これはあるラーメン屋のケースだ。

一杯分の麺が仮に100本だとする。それを2本だけ少なくする。夜の酔客には、わからないだろう
と、さらに2本、減らしてみる。

ラーメンの平均原価率は30%といわれ、昼夜100人ずつのお客で、ラーメン一杯700円、
ケチケチ作戦の結果は、1日1200円の利益改善となる。

漫画のような手口だが、この種の話にも、もうワタシたちはさほど驚かない。昨今の食の
安全問題も、原価を下げることにばかり目がいって、まるで客の顔を忘れてしまったあげくの
ことだ。

-続きます-