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名刺は切らしておりまして:
【政府】「株主とは経営能力がない上に浮気者、無責任、配当要求する強欲な方」 北畑経産事務次官吼える[2/5]
会社が株主を選ぶコスト(一目均衡)2008/02/05 日本経済新聞 朝刊
編集委員 前田昌孝
世界の株式相場に不透明感が漂うなか、米国では驚くようなことが起きる。マイクロソフトがヤフーに買収を提案したという。
ところが、日本ではサッポロホールディングスが米スティール・パートナーズによる株式の買い付けを拒否する方向らしい。本当にこれでいいのだろうか。
キリスト教では人間を罪に導く可能性がある感情を七つの大罪と呼ぶという。ごう慢、嫉妬(しっと)、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲の七つだ。
一月二十四日に財団法人経済産業調査会が主催した講演会で、北畑隆生経済産業事務次官は次のように語った。
「危ない表現をすると、株主は(企業経営の)能力がないうえに浮気者、それから無責任、有限責任であり、配当を要求する強欲な方。
さらにスティール・パートナーズとなると、(他の)株主や経営者を脅す。つまり、七つの大罪のうちかなりの部分がある」
だから日本では今後、株主平等主義を棚上げし、「方向としてはむしろ会社が株主を選ぶべきだ」という。
制度もこの方向に沿って構築する考え。例えば、株主総会で議決権を持たない「無議決権株」や、少数で議決権を大量に持つ「多議決権株」を容易に上場できるようにすることだ。
ほかにも北畑次官は、株式を五年以上保有した場合に限って譲渡益課税を軽減するアイデアも打ち出した。社外取締役は「役に立たない」から、米国流の企業統治には否定的だ。
しかし、会社が株主を選ぶコストは小さくない。最近では伊藤園が昨年九月三日に東京証券取引所に上場した無議決権優先株の例がある。当初は議決権のある普通株と大差ない株価でスタートしたが、二月四日終値は普通株が二千二百五十五円に対し、無議決権株は千五百六十一円。
今四月期の配当は普通株が三十八円、無議決権株が四十八円だから、配当利回りは普通株が一・六八%に対し、無議決権株は三・〇七%にもなる。
配当利回りだけが資本コストではないが、今後も無議決権株を発行して資金を調達しようとすれば、相当高くつくのは間違いない。
いつ現れるとも知れない「歓迎されざる株主」のために、買収防衛策を導入し、経営諮問委員会を設置する費用も安くはない。
企業にもよるが、防衛策導入時に法律事務所に数千万円を払い、経営諮問委員会には平時でも報酬を払うのが普通だ。これらは結局、株主の負担である。
最近の株式相場の下落を受け、持ち合い株の含み損の大きさに驚いた企業経営者も多いだろう。
王子製紙が北越製紙を敵対的に買収しようとしたとき、日本製紙は一株八百円強を投じて北越紙株を八・八五%取得した。四日の北越紙の終値は四百三十七円。評価損が気になるところだ。
優れた株主だけを集めたいのならば、優れた経営をすることが先だ。制度で守ることばかりを考えていると、世界から笑われる。
ソース:2008年2月5日 日経朝刊 一目均衡